2024年8月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
古書物解読の話 #イズミ #deflayh_pc
机に向かった主が虚ろな目をして古書物を眺めているところに呼び出された防衛者は「それ、どう解読したらいいわからない」と渡された本を受け止めた。脆い紙を金具で留めただけの、辛うじて本としての形をしているものだった。
「魔術の類いに関してはレオノアが詳しいのでは?」
「いいのいいの。詳しいといったって読まなきゃいけないのは私で、理解しなきゃいけないのも私」
第一レオノアの話はわけわかんないのよ。赤髪の主が机に突っ伏したまま答えた。防衛者の手の中の古書物は今までのものより薄い。ページを捲れば小さな文字が所狭しと並んでいる。
文字の並びを見るに古い東洋のものらしい。挿絵でデフォルメされた人間の裸体が躍っていた。
「薄いからって侮ってた。絵は裸ばかりで、色んな部分が隠されている。内容がわかるようでわかりたくない」
この薄い本が性典かただのエロ本かの区別がつかず、これ以上の解読が必要なのか判断に迷うものだった。
「全く変人っていうのはわけわかんないものばっかり残すからたちが悪いわ」
主は手袋をごみ箱に放り捨て大きなため息をついた。後に《ウ=ス異本》と名付けられる一連の東洋の古書物は、文献不足の魔術士ギルドのメンバーを大いに悩ませることになる。畳む
机に向かった主が虚ろな目をして古書物を眺めているところに呼び出された防衛者は「それ、どう解読したらいいわからない」と渡された本を受け止めた。脆い紙を金具で留めただけの、辛うじて本としての形をしているものだった。
「魔術の類いに関してはレオノアが詳しいのでは?」
「いいのいいの。詳しいといったって読まなきゃいけないのは私で、理解しなきゃいけないのも私」
第一レオノアの話はわけわかんないのよ。赤髪の主が机に突っ伏したまま答えた。防衛者の手の中の古書物は今までのものより薄い。ページを捲れば小さな文字が所狭しと並んでいる。
文字の並びを見るに古い東洋のものらしい。挿絵でデフォルメされた人間の裸体が躍っていた。
「薄いからって侮ってた。絵は裸ばかりで、色んな部分が隠されている。内容がわかるようでわかりたくない」
この薄い本が性典かただのエロ本かの区別がつかず、これ以上の解読が必要なのか判断に迷うものだった。
「全く変人っていうのはわけわかんないものばっかり残すからたちが悪いわ」
主は手袋をごみ箱に放り捨て大きなため息をついた。後に《ウ=ス異本》と名付けられる一連の東洋の古書物は、文献不足の魔術士ギルドのメンバーを大いに悩ませることになる。畳む
エーテル病に倒れる主の話 #イズミ #deflayh_pc
「……生きてる」
意識を取り戻した彼女の発した声は、聞きなれない掠れたものだった。
「はい、生きています。私も、主様も」
彼女の従者が受け止めて肯定する。彼女はゆっくりと現状を噛み砕きながら額に触れて、自身に施された治療を飲み込んでいく。触れた額にも甲にも人ならざる瞳は生えていなかった。
見知った天井から視線をずらせば、ベッドの側で防衛者が濡れたタオルを絞っていた。
「あなたも、生きてる。よかった。ごめん」
なぜ自分が倒れたのかは理解できているが、そこからの記憶はない。気がかりだった防衛者の安否も目の前に示されている。
薄暗い洞窟のネフィアに青く浮かぶ鬼火の放つエーテルの光は、人の体を急速に蝕んでいく。衰弱した彼女が病に倒れるのもそう時間はかからなかった。防衛者が意識のない彼女の起こす空間の歪みに抵抗しながら人一人抱えてネフィアを脱するのは容易ではなかったが、何とか守りきることはできた。
しかし元より彼女はエーテル病で体を変異させて能力を向上させていた。それも度が過ぎれば毒にしかならず、甲殻を治した時の傷は粗方彼の手によって癒せたとはいえ、身体には必要以上の負荷をかけた。かけざるをえなかった。
抗体を飲ませて安静にしていればあとは時間と彼女の体力が解決するだろう。
「……外は雪?」
のろのろと重い体を起こす。
「珍しく晴れています。……あまり動かない方が」
「顔洗う。水とか飲んで、そうしたら、ちゃんと寝る」
少しだけ目を閉じて今の体の感覚を覚え、再び防衛者を見つめた。
「これからはきっと晴れの日が増えるから、珍しくとは言えなくなるね」
シーツの下から滑るように現れたのは蹄でなく素足であった。素足で踏みしめた柔らかな絨毯に「この感覚も、久しぶり」と差し出された防衛者の冷たい手を取り一歩を踏み出した。畳む
「……生きてる」
意識を取り戻した彼女の発した声は、聞きなれない掠れたものだった。
「はい、生きています。私も、主様も」
彼女の従者が受け止めて肯定する。彼女はゆっくりと現状を噛み砕きながら額に触れて、自身に施された治療を飲み込んでいく。触れた額にも甲にも人ならざる瞳は生えていなかった。
見知った天井から視線をずらせば、ベッドの側で防衛者が濡れたタオルを絞っていた。
「あなたも、生きてる。よかった。ごめん」
なぜ自分が倒れたのかは理解できているが、そこからの記憶はない。気がかりだった防衛者の安否も目の前に示されている。
薄暗い洞窟のネフィアに青く浮かぶ鬼火の放つエーテルの光は、人の体を急速に蝕んでいく。衰弱した彼女が病に倒れるのもそう時間はかからなかった。防衛者が意識のない彼女の起こす空間の歪みに抵抗しながら人一人抱えてネフィアを脱するのは容易ではなかったが、何とか守りきることはできた。
しかし元より彼女はエーテル病で体を変異させて能力を向上させていた。それも度が過ぎれば毒にしかならず、甲殻を治した時の傷は粗方彼の手によって癒せたとはいえ、身体には必要以上の負荷をかけた。かけざるをえなかった。
抗体を飲ませて安静にしていればあとは時間と彼女の体力が解決するだろう。
「……外は雪?」
のろのろと重い体を起こす。
「珍しく晴れています。……あまり動かない方が」
「顔洗う。水とか飲んで、そうしたら、ちゃんと寝る」
少しだけ目を閉じて今の体の感覚を覚え、再び防衛者を見つめた。
「これからはきっと晴れの日が増えるから、珍しくとは言えなくなるね」
シーツの下から滑るように現れたのは蹄でなく素足であった。素足で踏みしめた柔らかな絨毯に「この感覚も、久しぶり」と差し出された防衛者の冷たい手を取り一歩を踏み出した。畳む
記念日の話 #レイラ #deflayh_pc
「神の化身の誕生日ですか? 僕もあまり覚えていないのですが、人の言う誕生日と呼べるものとはちょっと違うかもしれません。生まれた日というよりは、同期と会った日とか、自分が防衛者であることを意識した日というか。どちらかといえば記念日ですね」
私は自分の誕生日を知らない。羨ましく思うこともありましたが、生まれた時に生みの親から放されていた時点で、私の誕生は祝われてはいなかったのでしょう。そして今、生まれてきたことを祝う人は既に亡く。
「だから誕生日の代わりに、僕と出会った日を記念日にするんですか。でも本当にいいんですか」
何をとは彼は言いませんでしたが、きっと私と同じあの赤い光景を見ていたのでしょう。
「それでもいいのなら、僕は祈り、祝います。共に罪を分かち合いたいと思います。レイラさんさえよければ、ですが」
私はあの時なくしたものがたくさんありました。それを思い出す度に悼むのです。私はあの時一度死の淵に立ちました。それを生まれ変わったと呼ぶのです。それら全てを忘れないためなんです。記念日として、ある種の呪縛のように、切り離せないものにしたいのです。畳む
「神の化身の誕生日ですか? 僕もあまり覚えていないのですが、人の言う誕生日と呼べるものとはちょっと違うかもしれません。生まれた日というよりは、同期と会った日とか、自分が防衛者であることを意識した日というか。どちらかといえば記念日ですね」
私は自分の誕生日を知らない。羨ましく思うこともありましたが、生まれた時に生みの親から放されていた時点で、私の誕生は祝われてはいなかったのでしょう。そして今、生まれてきたことを祝う人は既に亡く。
「だから誕生日の代わりに、僕と出会った日を記念日にするんですか。でも本当にいいんですか」
何をとは彼は言いませんでしたが、きっと私と同じあの赤い光景を見ていたのでしょう。
「それでもいいのなら、僕は祈り、祝います。共に罪を分かち合いたいと思います。レイラさんさえよければ、ですが」
私はあの時なくしたものがたくさんありました。それを思い出す度に悼むのです。私はあの時一度死の淵に立ちました。それを生まれ変わったと呼ぶのです。それら全てを忘れないためなんです。記念日として、ある種の呪縛のように、切り離せないものにしたいのです。畳む
チュートリアルの話 #ロミアス
「まだ、何か用があるのか?」
>結婚のやり方が知りたい
「まずは結婚したい相手の友好度を上げるんだ。酒を飲んでいる相手とは気持ちいいことができ、友好度を上げることができる。まずは私で試してみるといい」
(あなたはロミアスにクリムエールを渡した)
(気持ちいいことしない?)
「……上出来だ。見事に友好度が魂の友まで上がったようだな。この方法の他にも友好度を上げるアイテムが存在するが、どれも高価なものばかりだ。試しに君の足元に結婚指輪を置いた。それを拾い、Gキーで渡してみるんだ」
(ロミアスはにやりと笑った)
「この指輪と友好度を失いたくなければ、無理矢理取り上げないことだ。ふふ……最後に、結婚だな。結婚したい相手を選択し、婚約を申し込んでみてくれ。……よし、これで私と君は夫婦だ」畳む
「まだ、何か用があるのか?」
>結婚のやり方が知りたい
「まずは結婚したい相手の友好度を上げるんだ。酒を飲んでいる相手とは気持ちいいことができ、友好度を上げることができる。まずは私で試してみるといい」
(あなたはロミアスにクリムエールを渡した)
(気持ちいいことしない?)
「……上出来だ。見事に友好度が魂の友まで上がったようだな。この方法の他にも友好度を上げるアイテムが存在するが、どれも高価なものばかりだ。試しに君の足元に結婚指輪を置いた。それを拾い、Gキーで渡してみるんだ」
(ロミアスはにやりと笑った)
「この指輪と友好度を失いたくなければ、無理矢理取り上げないことだ。ふふ……最後に、結婚だな。結婚したい相手を選択し、婚約を申し込んでみてくれ。……よし、これで私と君は夫婦だ」畳む
防衛者。私を殺してみせなさい。経験も、知識も、技能も、私よりずっと優れているあなたが私を殺せないはずがない。そうでしょう? 今まで一人の従者として私に仕え、私を守っていた貴方が私に刃を向けられる好機なのよ。もう少し嬉しそうな顔をして。私は、それを望むわ。
二振りの赤い短剣を携え、彼女は最愛の従者へ刃を向けた。聖なる槍を持つ騎士の言葉は届かない。届いたところで刃を交えることを止められはしない。
手堅く、慈悲深く、私を一撃で仕留めるつもり? でも狙わせてあげない!
この刃を的確に受け止める筈と理解した上で一閃する度、言い様のない快感が背筋を這い回る。頭の中はクリアになり、代わりに心の内はただ一人の男が侵食していく。夜を共にし体を交え心を明け渡しても得られなかったものに、命の奪い合いでようやく近づけた。でも、まだ全てじゃない。悪意も、敵意も、殺意も。全てを。
――ふ……ふ、ふふ、あははははっ、あはははははっ。
おかしくてたまらない。彼は息を乱しもしない。ただ目の前の最愛の男が高みへ押し上げていく。それでいい。それがいい。涙は止まらない。気付けば子供のように泣き叫んでいた。向けられているのは彼自身の悪意でもなく、敵意でもなく、殺意でもない。その向こうにいる敵の思念がそうさせている。甲高い音を立てて短剣が一振り弾かれ、防御の崩れた体の中心に得物が思い切り押し込められる――。
そう、だから、それでいいの。
百舌鳥の早贄。聖槍に貫かれ、手から滑り落ちた短剣の落ちる音。聖槍の穿った穴から生温いものが溢れて、体の芯ごと引き抜かれるような僅かな抵抗と共に槍が胸から離れていく。彼女が彼女自身の血の海に膝をつく前に、力を失った体は抱き留められたのを最期に彼女の意識は途絶えた。
「――と、まあ。そんな夢を見たのでした」
「……そんな話がありますか」
相槌を打ち続けていた黄金の騎士が徐に冷めた紅茶を飲み干すと、斬鉄剣のようにばっさりと主の長話を切り捨てた。畳む