防衛者に殺される話 #イズミ #deflayh_pc続きを読む 防衛者。私を殺してみせなさい。経験も、知識も、技能も、私よりずっと優れているあなたが私を殺せないはずがない。そうでしょう? 今まで一人の従者として私に仕え、私を守っていた貴方が私に刃を向けられる好機なのよ。もう少し嬉しそうな顔をして。私は、それを望むわ。 二振りの赤い短剣を携え、彼女は最愛の従者へ刃を向けた。聖なる槍を持つ騎士の言葉は届かない。届いたところで刃を交えることを止められはしない。 手堅く、慈悲深く、私を一撃で仕留めるつもり? でも狙わせてあげない! この刃を的確に受け止める筈と理解した上で一閃する度、言い様のない快感が背筋を這い回る。頭の中はクリアになり、代わりに心の内はただ一人の男が侵食していく。夜を共にし体を交え心を明け渡しても得られなかったものに、命の奪い合いでようやく近づけた。でも、まだ全てじゃない。悪意も、敵意も、殺意も。全てを。 ――ふ……ふ、ふふ、あははははっ、あはははははっ。 おかしくてたまらない。彼は息を乱しもしない。ただ目の前の最愛の男が高みへ押し上げていく。それでいい。それがいい。涙は止まらない。気付けば子供のように泣き叫んでいた。向けられているのは彼自身の悪意でもなく、敵意でもなく、殺意でもない。その向こうにいる敵の思念がそうさせている。甲高い音を立てて短剣が一振り弾かれ、防御の崩れた体の中心に得物が思い切り押し込められる――。 そう、だから、それでいいの。 百舌鳥の早贄。聖槍に貫かれ、手から滑り落ちた短剣の落ちる音。聖槍の穿った穴から生温いものが溢れて、体の芯ごと引き抜かれるような僅かな抵抗と共に槍が胸から離れていく。彼女が彼女自身の血の海に膝をつく前に、力を失った体は抱き留められたのを最期に彼女の意識は途絶えた。「――と、まあ。そんな夢を見たのでした」「……そんな話がありますか」 相槌を打ち続けていた黄金の騎士が徐に冷めた紅茶を飲み干すと、斬鉄剣のようにばっさりと主の長話を切り捨てた。畳む 2024.8.28(Wed) 20:07:59 二次創作,冒険者,掌編
防衛者。私を殺してみせなさい。経験も、知識も、技能も、私よりずっと優れているあなたが私を殺せないはずがない。そうでしょう? 今まで一人の従者として私に仕え、私を守っていた貴方が私に刃を向けられる好機なのよ。もう少し嬉しそうな顔をして。私は、それを望むわ。
二振りの赤い短剣を携え、彼女は最愛の従者へ刃を向けた。聖なる槍を持つ騎士の言葉は届かない。届いたところで刃を交えることを止められはしない。
手堅く、慈悲深く、私を一撃で仕留めるつもり? でも狙わせてあげない!
この刃を的確に受け止める筈と理解した上で一閃する度、言い様のない快感が背筋を這い回る。頭の中はクリアになり、代わりに心の内はただ一人の男が侵食していく。夜を共にし体を交え心を明け渡しても得られなかったものに、命の奪い合いでようやく近づけた。でも、まだ全てじゃない。悪意も、敵意も、殺意も。全てを。
――ふ……ふ、ふふ、あははははっ、あはははははっ。
おかしくてたまらない。彼は息を乱しもしない。ただ目の前の最愛の男が高みへ押し上げていく。それでいい。それがいい。涙は止まらない。気付けば子供のように泣き叫んでいた。向けられているのは彼自身の悪意でもなく、敵意でもなく、殺意でもない。その向こうにいる敵の思念がそうさせている。甲高い音を立てて短剣が一振り弾かれ、防御の崩れた体の中心に得物が思い切り押し込められる――。
そう、だから、それでいいの。
百舌鳥の早贄。聖槍に貫かれ、手から滑り落ちた短剣の落ちる音。聖槍の穿った穴から生温いものが溢れて、体の芯ごと引き抜かれるような僅かな抵抗と共に槍が胸から離れていく。彼女が彼女自身の血の海に膝をつく前に、力を失った体は抱き留められたのを最期に彼女の意識は途絶えた。
「――と、まあ。そんな夢を見たのでした」
「……そんな話がありますか」
相槌を打ち続けていた黄金の騎士が徐に冷めた紅茶を飲み干すと、斬鉄剣のようにばっさりと主の長話を切り捨てた。畳む