エーテル病に倒れる主の話 #イズミ #deflayh_pc続きを読む「……生きてる」 意識を取り戻した彼女の発した声は、聞きなれない掠れたものだった。「はい、生きています。私も、主様も」 彼女の従者が受け止めて肯定する。彼女はゆっくりと現状を噛み砕きながら額に触れて、自身に施された治療を飲み込んでいく。触れた額にも甲にも人ならざる瞳は生えていなかった。 見知った天井から視線をずらせば、ベッドの側で防衛者が濡れたタオルを絞っていた。「あなたも、生きてる。よかった。ごめん」 なぜ自分が倒れたのかは理解できているが、そこからの記憶はない。気がかりだった防衛者の安否も目の前に示されている。 薄暗い洞窟のネフィアに青く浮かぶ鬼火の放つエーテルの光は、人の体を急速に蝕んでいく。衰弱した彼女が病に倒れるのもそう時間はかからなかった。防衛者が意識のない彼女の起こす空間の歪みに抵抗しながら人一人抱えてネフィアを脱するのは容易ではなかったが、何とか守りきることはできた。 しかし元より彼女はエーテル病で体を変異させて能力を向上させていた。それも度が過ぎれば毒にしかならず、甲殻を治した時の傷は粗方彼の手によって癒せたとはいえ、身体には必要以上の負荷をかけた。かけざるをえなかった。抗体を飲ませて安静にしていればあとは時間と彼女の体力が解決するだろう。「……外は雪?」 のろのろと重い体を起こす。「珍しく晴れています。……あまり動かない方が」「顔洗う。水とか飲んで、そうしたら、ちゃんと寝る」 少しだけ目を閉じて今の体の感覚を覚え、再び防衛者を見つめた。「これからはきっと晴れの日が増えるから、珍しくとは言えなくなるね」 シーツの下から滑るように現れたのは蹄でなく素足であった。素足で踏みしめた柔らかな絨毯に「この感覚も、久しぶり」と差し出された防衛者の冷たい手を取り一歩を踏み出した。畳む 2024.8.28(Wed) 20:06:42 二次創作,冒険者,掌編
「……生きてる」
意識を取り戻した彼女の発した声は、聞きなれない掠れたものだった。
「はい、生きています。私も、主様も」
彼女の従者が受け止めて肯定する。彼女はゆっくりと現状を噛み砕きながら額に触れて、自身に施された治療を飲み込んでいく。触れた額にも甲にも人ならざる瞳は生えていなかった。
見知った天井から視線をずらせば、ベッドの側で防衛者が濡れたタオルを絞っていた。
「あなたも、生きてる。よかった。ごめん」
なぜ自分が倒れたのかは理解できているが、そこからの記憶はない。気がかりだった防衛者の安否も目の前に示されている。
薄暗い洞窟のネフィアに青く浮かぶ鬼火の放つエーテルの光は、人の体を急速に蝕んでいく。衰弱した彼女が病に倒れるのもそう時間はかからなかった。防衛者が意識のない彼女の起こす空間の歪みに抵抗しながら人一人抱えてネフィアを脱するのは容易ではなかったが、何とか守りきることはできた。
しかし元より彼女はエーテル病で体を変異させて能力を向上させていた。それも度が過ぎれば毒にしかならず、甲殻を治した時の傷は粗方彼の手によって癒せたとはいえ、身体には必要以上の負荷をかけた。かけざるをえなかった。
抗体を飲ませて安静にしていればあとは時間と彼女の体力が解決するだろう。
「……外は雪?」
のろのろと重い体を起こす。
「珍しく晴れています。……あまり動かない方が」
「顔洗う。水とか飲んで、そうしたら、ちゃんと寝る」
少しだけ目を閉じて今の体の感覚を覚え、再び防衛者を見つめた。
「これからはきっと晴れの日が増えるから、珍しくとは言えなくなるね」
シーツの下から滑るように現れたのは蹄でなく素足であった。素足で踏みしめた柔らかな絨毯に「この感覚も、久しぶり」と差し出された防衛者の冷たい手を取り一歩を踏み出した。畳む