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ロイターとクラムベリー中毒のヴェセルの話 #ロイター #虚空さん
終わりの時は案外呆気なく訪れた。
「私はもう長くない」
ヴェルニースの酒場でクリムエールを飲みながら、何ということも無いようにヴェセルが口にしたのを、ロイターは酒を呷る手を止めた。
「何だと?」
「私は長くないと言った」
「また妙な幻覚でも見ているのか。薬は止めろとあれほど言ったはずだ」
一度薬漬けで朦朧としたヴェセルを見かけてからは、ロイターは何かと彼を監視するようになったのだ。うわ言のようにエレアの娘の名を呟き、虚ろな瞳で虚空を見つめるかつての友、戦友と呼べるヴェセルがこれ以上落ちていくのを、ロイターは見ていられなかった。
「薬はもう止めた。だが……」
遅すぎたのだ。不摂生な生活に加え、クラムベリーだけでなく、違法、合法、あらゆる麻薬に手を出したヴェセルの体は、耐え切れなかった。見えないところは既に病に犯され蝕まれていた。徐々に死に至る病を。
「だから、何だ。また貴様は逃げるのか?」
アテランでその背を追い、戦場で肩を並べ、張り合ってきた。ロイターは彼と剣を交わすことに燃え、ある種の生き甲斐と化していた。しかしヴェセルは、一度も負けを譲らずにひっそりとザナンを去った。ヴェセルが失踪してからは、ヴェセルよりも上の地位に就き、こうしてザナンの皇子の警護を任されるまでの立場となったが、張り合う相手を失った今、この勝利は無意味だ。
彼が妹のように思っていたエレアの娘を失ってからのヴェセルは、抜け殻のようだった。地位も名声も何もかもを呆気なく捨ててザナンを去った時は、とうとう死を選んだものかと思っていたが、こうして生きていただけでも、ロイターは嬉しかったのだ。
「俺と勝負しろ、ヴェセル。薬に殺されるくらいなら俺が殺してやろう」
しかし、再会したヴェセルはわずかな面影だけを残して変わり果てていた。白き鷹はもう羽ばたく翼も持たず、絶望を吸い取ったように黒く鈍く輝く剣を携えて虚空を見上げるのみ。
聞けば現実から逃げるように、悪夢から逃れるように、クラムベリーの煙を吸っては依頼をこなして今日を生きるためだけの金を稼いでいたらしい。生き延びたところで、その先に待ち受けるのは果たして希望はあるのが疑わしい、不安定な毎日。その上病ときたものだ。
「変わらないな」
「貴様……」
「そのまま、変わらずにいて欲しい」
ふっとヴェセルが笑う。今も昔も張り合って、何かと突っかかってきたロイターに今は憧れさえ感じるのだ。昔と変わらずに、対抗し、反発するロイターに。ヴェセルはテーブルにいくらかの金貨を置いて立ち上がった。
「ヴェセル! これ以上の勝ち逃げは許さんぞ!」
騒がしい酒場が一瞬静まり返るほどに響いたロイターの声を背に、ヴェセルは戸を潜る。そうしてひっそり「許せ」と呟いた。畳む
終わりの時は案外呆気なく訪れた。
「私はもう長くない」
ヴェルニースの酒場でクリムエールを飲みながら、何ということも無いようにヴェセルが口にしたのを、ロイターは酒を呷る手を止めた。
「何だと?」
「私は長くないと言った」
「また妙な幻覚でも見ているのか。薬は止めろとあれほど言ったはずだ」
一度薬漬けで朦朧としたヴェセルを見かけてからは、ロイターは何かと彼を監視するようになったのだ。うわ言のようにエレアの娘の名を呟き、虚ろな瞳で虚空を見つめるかつての友、戦友と呼べるヴェセルがこれ以上落ちていくのを、ロイターは見ていられなかった。
「薬はもう止めた。だが……」
遅すぎたのだ。不摂生な生活に加え、クラムベリーだけでなく、違法、合法、あらゆる麻薬に手を出したヴェセルの体は、耐え切れなかった。見えないところは既に病に犯され蝕まれていた。徐々に死に至る病を。
「だから、何だ。また貴様は逃げるのか?」
アテランでその背を追い、戦場で肩を並べ、張り合ってきた。ロイターは彼と剣を交わすことに燃え、ある種の生き甲斐と化していた。しかしヴェセルは、一度も負けを譲らずにひっそりとザナンを去った。ヴェセルが失踪してからは、ヴェセルよりも上の地位に就き、こうしてザナンの皇子の警護を任されるまでの立場となったが、張り合う相手を失った今、この勝利は無意味だ。
彼が妹のように思っていたエレアの娘を失ってからのヴェセルは、抜け殻のようだった。地位も名声も何もかもを呆気なく捨ててザナンを去った時は、とうとう死を選んだものかと思っていたが、こうして生きていただけでも、ロイターは嬉しかったのだ。
「俺と勝負しろ、ヴェセル。薬に殺されるくらいなら俺が殺してやろう」
しかし、再会したヴェセルはわずかな面影だけを残して変わり果てていた。白き鷹はもう羽ばたく翼も持たず、絶望を吸い取ったように黒く鈍く輝く剣を携えて虚空を見上げるのみ。
聞けば現実から逃げるように、悪夢から逃れるように、クラムベリーの煙を吸っては依頼をこなして今日を生きるためだけの金を稼いでいたらしい。生き延びたところで、その先に待ち受けるのは果たして希望はあるのが疑わしい、不安定な毎日。その上病ときたものだ。
「変わらないな」
「貴様……」
「そのまま、変わらずにいて欲しい」
ふっとヴェセルが笑う。今も昔も張り合って、何かと突っかかってきたロイターに今は憧れさえ感じるのだ。昔と変わらずに、対抗し、反発するロイターに。ヴェセルはテーブルにいくらかの金貨を置いて立ち上がった。
「ヴェセル! これ以上の勝ち逃げは許さんぞ!」
騒がしい酒場が一瞬静まり返るほどに響いたロイターの声を背に、ヴェセルは戸を潜る。そうしてひっそり「許せ」と呟いた。畳む
夢で人肉フィート付きそうになるヴェセルの話 #虚空さん
濡れた肉が運ばれてきた。さっきまで主の腕の中に抱かれていた白いふわふわした獣だと気付いた。首を落とされ、血を抜かれ、皮を剥がされ、腸を掻き出されたもの。まだ微かに温もりが残る命の脱け殻。引き千切る。食い千切る。噛み千切る。骨から肉を削ぎ落とす。不思議と生臭さはない。
それがそのまま、自分の血肉になる。腹が鳴った。腹が減った。腹が痛み、溶けていくような錯覚までした。まだ足りない。次は、熱を通したものが食べたいと主に伝えた。肉、魚、野菜、果実。ありとあらゆる食材が用意されている。運ばれてきたのは、■■■だった。
丁度仕留めたばかりなのだろう。まだ僅かに息がある■■■の首に歯を立てる。甘露のような雫が喉を潤す。■■■は抵抗しない。■■■はうっすらと目を開けて、吐息のような細さで名前を囁いた。
「――――」
■■■はどこか見覚えのある瞳の色をしていた。この生き物は、私を知っている?
夢を見た。一瞬にして覚醒する。歯の根が違える。止まらない。親指の付け根に噛みついて抑える。自分の横たわっていたベッドが暖かい。人肌に限りなく近い温度があの夢を思い出させる。皮膚が切れて血の玉が膨らんでいく。鉄臭く、当然ながら人が口にするものではなかった。
それが夢と現実を引き離してくれた。血の味を酒で強引に流し込み、再びベッドに潜り込んだ。指の痛みでまた夢を見るだろう。あの悪趣味な夢は回避してくれと願い目を閉じた。畳む
濡れた肉が運ばれてきた。さっきまで主の腕の中に抱かれていた白いふわふわした獣だと気付いた。首を落とされ、血を抜かれ、皮を剥がされ、腸を掻き出されたもの。まだ微かに温もりが残る命の脱け殻。引き千切る。食い千切る。噛み千切る。骨から肉を削ぎ落とす。不思議と生臭さはない。
それがそのまま、自分の血肉になる。腹が鳴った。腹が減った。腹が痛み、溶けていくような錯覚までした。まだ足りない。次は、熱を通したものが食べたいと主に伝えた。肉、魚、野菜、果実。ありとあらゆる食材が用意されている。運ばれてきたのは、■■■だった。
丁度仕留めたばかりなのだろう。まだ僅かに息がある■■■の首に歯を立てる。甘露のような雫が喉を潤す。■■■は抵抗しない。■■■はうっすらと目を開けて、吐息のような細さで名前を囁いた。
「――――」
■■■はどこか見覚えのある瞳の色をしていた。この生き物は、私を知っている?
夢を見た。一瞬にして覚醒する。歯の根が違える。止まらない。親指の付け根に噛みついて抑える。自分の横たわっていたベッドが暖かい。人肌に限りなく近い温度があの夢を思い出させる。皮膚が切れて血の玉が膨らんでいく。鉄臭く、当然ながら人が口にするものではなかった。
それが夢と現実を引き離してくれた。血の味を酒で強引に流し込み、再びベッドに潜り込んだ。指の痛みでまた夢を見るだろう。あの悪趣味な夢は回避してくれと願い目を閉じた。畳む
あなたのお題は「眠る銃」です!できれば作中に『剣』を使い、無邪気な少女『グウェン』を登場させましょう。-http://shindanmaker.com/331820 #shindanmaker #グウェン
無邪気な少女を殺すことは善人への第一歩とは、今やノースティリスの冒険者の間でもちきりの噂だった。野良少女や妹、乞食といったうら若き乙女たちが殺められ、時として少女を汚してから殺したり、殺してから汚す冒険者も現れた。各地をさ迷う少女たちに何をしようと法に問われぬ為、それを咎める者はなかった。
そんな折、農村ヨウィンの少女グウェンにも少女狩りの矛先が向けられた。錆び付いた鎧に物々しい兜、腰の剣は業物か。血の跡のような禍々しい模様が滲んだままのローブ。ヴェルニースの犬好きの少女や、ノイエルの不憫な少女など見境なく次々と手にかけてきた粗暴な冒険者がこのヨウィンに訪れたのである。
こんな田舎に訪れる冒険者は珍しく、閑古鳥のなく雑貨屋で品定めをする冒険者の一挙一動がグウェンの目にはとても新鮮に映っていた。冒険者の噂など露知らぬ好奇心旺盛な少女は冒険者の側に駆け寄った。
「ついていってもいい?」
ただでさえ狭い村である。そこかしこにいる農夫や、滞在している軍人、彼らの目があるこの村でまさか凶行に及ぶ者などいるはずがない。警戒心を持ち合わせていないのも無理はない。無邪気さがそうさせている故に。 見知らぬ者にでも恐れを抱かず愛らしく話しかけてくるこの少女に冒険者は酷く興奮した。
モンスターを仕留め、返り血を浴びて微笑む少女。
突如として現れ人をお兄ちゃんと呼び慕う少女。
お金の見返りに衣服を脱ぎ始める少女。
そのどれでもない、これこそが無邪気な少女。冒険者は目の前の少女に確信を持った剣を突き立てた! 未発達の薄い体を易々と貫く刃に一瞬にして少女グウェンの表情は凍り付き、自身の胸から生える剣を見て何が起きたのか分からないといった様子で痛みを感じる間もなくミンチになった。
三日後、グウェンは自身の腐った死体と残骸を見て全てを悟る。無関心を決め込んでいるのか、元から興味は無かったのか、その側で平然と農作業を続ける農夫が異質なものに映った。
無邪気な少女は自衛を覚えた。
力と速さと相手の隙が必要な刃ではなく、引き金を引けば衝撃と共に相手を殺傷せしめる弾が発射される古めかしい小さな銃を選んだ。村に滞在している軍人のように遠くから狙って撃てばいい。その考えに至り、銃と共に眠るようになった瞬間から、少女は冒険者の狙う無邪気な少女ではなくなった。
無邪気な少女はもういない。ただそこには、それでもなお蹂躙される少女だけが存在していた。畳む
無邪気な少女を殺すことは善人への第一歩とは、今やノースティリスの冒険者の間でもちきりの噂だった。野良少女や妹、乞食といったうら若き乙女たちが殺められ、時として少女を汚してから殺したり、殺してから汚す冒険者も現れた。各地をさ迷う少女たちに何をしようと法に問われぬ為、それを咎める者はなかった。
そんな折、農村ヨウィンの少女グウェンにも少女狩りの矛先が向けられた。錆び付いた鎧に物々しい兜、腰の剣は業物か。血の跡のような禍々しい模様が滲んだままのローブ。ヴェルニースの犬好きの少女や、ノイエルの不憫な少女など見境なく次々と手にかけてきた粗暴な冒険者がこのヨウィンに訪れたのである。
こんな田舎に訪れる冒険者は珍しく、閑古鳥のなく雑貨屋で品定めをする冒険者の一挙一動がグウェンの目にはとても新鮮に映っていた。冒険者の噂など露知らぬ好奇心旺盛な少女は冒険者の側に駆け寄った。
「ついていってもいい?」
ただでさえ狭い村である。そこかしこにいる農夫や、滞在している軍人、彼らの目があるこの村でまさか凶行に及ぶ者などいるはずがない。警戒心を持ち合わせていないのも無理はない。無邪気さがそうさせている故に。 見知らぬ者にでも恐れを抱かず愛らしく話しかけてくるこの少女に冒険者は酷く興奮した。
モンスターを仕留め、返り血を浴びて微笑む少女。
突如として現れ人をお兄ちゃんと呼び慕う少女。
お金の見返りに衣服を脱ぎ始める少女。
そのどれでもない、これこそが無邪気な少女。冒険者は目の前の少女に確信を持った剣を突き立てた! 未発達の薄い体を易々と貫く刃に一瞬にして少女グウェンの表情は凍り付き、自身の胸から生える剣を見て何が起きたのか分からないといった様子で痛みを感じる間もなくミンチになった。
三日後、グウェンは自身の腐った死体と残骸を見て全てを悟る。無関心を決め込んでいるのか、元から興味は無かったのか、その側で平然と農作業を続ける農夫が異質なものに映った。
無邪気な少女は自衛を覚えた。
力と速さと相手の隙が必要な刃ではなく、引き金を引けば衝撃と共に相手を殺傷せしめる弾が発射される古めかしい小さな銃を選んだ。村に滞在している軍人のように遠くから狙って撃てばいい。その考えに至り、銃と共に眠るようになった瞬間から、少女は冒険者の狙う無邪気な少女ではなくなった。
無邪気な少女はもういない。ただそこには、それでもなお蹂躙される少女だけが存在していた。畳む
あなたのお題は「魔性の刀」です!できれば作中に『花』を使い、ペットアリーナの主催者『ニノ』を登場させましょう。-http://shindanmaker.com/331820 #shindanmaker #ニノ
人であれ、獣であれ、主と共に生きるペットであればどなたでもペットアリーナに参加する権利を得ることができます――。
私がこのペットアリーナを主催した時から、それは変わらない掟だった。薬で育て上げたというプチが螺旋の王を打ちのめす様、腕を何本も生やした傭兵が目にも止まらぬ速さで一面を薙いでいく様、時には神と呼ばれる者を従え、観客ごと対戦者を葬ろうとする様。そのどれもが美しい戦いだったが、ある時ある一戦を観た時からその全てが色褪せてしまった。
その少女は極々普通の、ペットアリーナに参加することを除けばどこにでもいる少女に見えた。対する屈強なガグの手にかかるであろうことは誰にも予想でき、少女は観衆の見守る中蹂躙されるのを嬉々として待つガグの主の舌なめずりを嫌悪を露にした目で見ている。開戦直後、彼女が腰の刀を抜くまでは。
一瞬。瞬きひとつの間。飛ばすはずだった下卑た野次の行き場を無くし、あんぐりと口を開けたままのガグの主。少女の刀がガグの筋肉質な首を一刀に両断したのだ。少女に向かって倒れ込もうとする死体の胸に刀を捩じ込みその勢いで押し戻す。不思議と出血のないガグの死体の中心で、少女の手の中の刀が小さく震えたように見えた。
遅れて歓声がアリーナを包み込んだ。ジャイアント・キリング。予想された運命を覆した少女は花のような微笑みをこちらに向け、判定を待つ。結果は言わずもがなであった。ガグの死体が運び出され、あの少女が会場を後にするまで、私はその刀……おそらくは『生きている武器』に見とれていた。
ここペットアリーナでは、人であれ、獣であれ、主と共に生きるペットであればどなたでも参加する権利を得ることができます。鍛え抜かれたペットも、そうでないペットも。私の心を奪った魔性の刀に再び会えることを願い、ここポート・カプールで挑戦者を待つ。何のへんてつもない極々普通の少女が手にしていた、無双の力を与えるあの白刃の煌めきをまた見たいが為に。畳む
人であれ、獣であれ、主と共に生きるペットであればどなたでもペットアリーナに参加する権利を得ることができます――。
私がこのペットアリーナを主催した時から、それは変わらない掟だった。薬で育て上げたというプチが螺旋の王を打ちのめす様、腕を何本も生やした傭兵が目にも止まらぬ速さで一面を薙いでいく様、時には神と呼ばれる者を従え、観客ごと対戦者を葬ろうとする様。そのどれもが美しい戦いだったが、ある時ある一戦を観た時からその全てが色褪せてしまった。
その少女は極々普通の、ペットアリーナに参加することを除けばどこにでもいる少女に見えた。対する屈強なガグの手にかかるであろうことは誰にも予想でき、少女は観衆の見守る中蹂躙されるのを嬉々として待つガグの主の舌なめずりを嫌悪を露にした目で見ている。開戦直後、彼女が腰の刀を抜くまでは。
一瞬。瞬きひとつの間。飛ばすはずだった下卑た野次の行き場を無くし、あんぐりと口を開けたままのガグの主。少女の刀がガグの筋肉質な首を一刀に両断したのだ。少女に向かって倒れ込もうとする死体の胸に刀を捩じ込みその勢いで押し戻す。不思議と出血のないガグの死体の中心で、少女の手の中の刀が小さく震えたように見えた。
遅れて歓声がアリーナを包み込んだ。ジャイアント・キリング。予想された運命を覆した少女は花のような微笑みをこちらに向け、判定を待つ。結果は言わずもがなであった。ガグの死体が運び出され、あの少女が会場を後にするまで、私はその刀……おそらくは『生きている武器』に見とれていた。
ここペットアリーナでは、人であれ、獣であれ、主と共に生きるペットであればどなたでも参加する権利を得ることができます。鍛え抜かれたペットも、そうでないペットも。私の心を奪った魔性の刀に再び会えることを願い、ここポート・カプールで挑戦者を待つ。何のへんてつもない極々普通の少女が手にしていた、無双の力を与えるあの白刃の煌めきをまた見たいが為に。畳む
どうしてこんなところにいるのだとあなたは感じた。彼女とはかけ離れたこんな汚い町の酒場に、なぜ、グウェンが。白い髪の少女はあなたを見つけると昔のようにあなたに駆け寄ってくる。足元に広がっていた酒なのかそれ以外なのか区別の付かない液体が跳ねて床に範囲を広げる。
「赤って好きな色なの」
靴が汚れるのも構わずにその水溜まりを踏み抜き、あなたにしなだれかかり擦れた笑みを浮かべたグウェンに、あの頃の無邪気な面影はない。服の下に隠しきれない年頃の少女にしてはあまりにも多すぎる傷はあなたの目を引いた。あなたが戸惑っていると、爆弾魔の少女が「また会ったわねヒトゴロシくん。その子は新入りよ」とあなたをテーブルへと招く。
ヒトゴロシ、爆弾魔、無邪気だった少女がテーブルを囲む。あなたはグウェンがなぜここにいるのかを切り出せずにいたが、彼女が自ずから語り始めた。
「私が冒険者に襲われても誰も助けてくれなかった。人拐いに遭っても気にも留めなかった。無関心だった。……だから、私も見たいな。あの赤い花」
赤い花。パルミアに咲かせたそれは、ヨウィンからはさぞ美しく見えただろう。ノエルの入れ知恵かは判断できないが、グウェンがあの花を理解していることよりも、無力な彼女が冒険者の慰み物になっていたことが許せなかった。タイミングを見計らったようにノエルが例の物を用意し一言添える前に、あなたはそれを売ってくれと口にしていた。
「あたしの時より判断が早いじゃないヒトデナシくん。よっぽどこの子が気に入ってるのかしら?」
昔よりも金に余裕はある。赤い花を咲かせるのもこれで二回目になる。ノエルに従ってあの宿屋に仕掛けた時と違い、自分の意思で選んでみせた。
「冒険者さん、もうひとつお願いがあるの」
核爆弾を手にしたあなたをグウェンは上目遣いで見つめ、あの頃のような無邪気な笑みで『お願い』をした。
「サンドラさんのケープも欲しいな」畳む