No.129

夢で人肉フィート付きそうになるヴェセルの話 #虚空さん

 濡れた肉が運ばれてきた。さっきまで主の腕の中に抱かれていた白いふわふわした獣だと気付いた。首を落とされ、血を抜かれ、皮を剥がされ、腸を掻き出されたもの。まだ微かに温もりが残る命の脱け殻。引き千切る。食い千切る。噛み千切る。骨から肉を削ぎ落とす。不思議と生臭さはない。

 それがそのまま、自分の血肉になる。腹が鳴った。腹が減った。腹が痛み、溶けていくような錯覚までした。まだ足りない。次は、熱を通したものが食べたいと主に伝えた。肉、魚、野菜、果実。ありとあらゆる食材が用意されている。運ばれてきたのは、■■■だった。
 丁度仕留めたばかりなのだろう。まだ僅かに息がある■■■の首に歯を立てる。甘露のような雫が喉を潤す。■■■は抵抗しない。■■■はうっすらと目を開けて、吐息のような細さで名前を囁いた。
「――――」
 ■■■はどこか見覚えのある瞳の色をしていた。この生き物は、私を知っている?
夢を見た。一瞬にして覚醒する。歯の根が違える。止まらない。親指の付け根に噛みついて抑える。自分の横たわっていたベッドが暖かい。人肌に限りなく近い温度があの夢を思い出させる。皮膚が切れて血の玉が膨らんでいく。鉄臭く、当然ながら人が口にするものではなかった。
 それが夢と現実を引き離してくれた。血の味を酒で強引に流し込み、再びベッドに潜り込んだ。指の痛みでまた夢を見るだろう。あの悪趣味な夢は回避してくれと願い目を閉じた。畳む

二次創作,NPC,掌編