No.131

ノエルとグウェンの赤い花の話 #ノエル #グウェン

 どうしてこんなところにいるのだとあなたは感じた。彼女とはかけ離れたこんな汚い町の酒場に、なぜ、グウェンが。白い髪の少女はあなたを見つけると昔のようにあなたに駆け寄ってくる。足元に広がっていた酒なのかそれ以外なのか区別の付かない液体が跳ねて床に範囲を広げる。
「赤って好きな色なの」
 靴が汚れるのも構わずにその水溜まりを踏み抜き、あなたにしなだれかかり擦れた笑みを浮かべたグウェンに、あの頃の無邪気な面影はない。服の下に隠しきれない年頃の少女にしてはあまりにも多すぎる傷はあなたの目を引いた。あなたが戸惑っていると、爆弾魔の少女が「また会ったわねヒトゴロシくん。その子は新入りよ」とあなたをテーブルへと招く。
 ヒトゴロシ、爆弾魔、無邪気だった少女がテーブルを囲む。あなたはグウェンがなぜここにいるのかを切り出せずにいたが、彼女が自ずから語り始めた。
「私が冒険者に襲われても誰も助けてくれなかった。人拐いに遭っても気にも留めなかった。無関心だった。……だから、私も見たいな。あの赤い花」
 赤い花。パルミアに咲かせたそれは、ヨウィンからはさぞ美しく見えただろう。ノエルの入れ知恵かは判断できないが、グウェンがあの花を理解していることよりも、無力な彼女が冒険者の慰み物になっていたことが許せなかった。タイミングを見計らったようにノエルが例の物を用意し一言添える前に、あなたはそれを売ってくれと口にしていた。
「あたしの時より判断が早いじゃないヒトデナシくん。よっぽどこの子が気に入ってるのかしら?」
 昔よりも金に余裕はある。赤い花を咲かせるのもこれで二回目になる。ノエルに従ってあの宿屋に仕掛けた時と違い、自分の意思で選んでみせた。
「冒険者さん、もうひとつお願いがあるの」
 核爆弾を手にしたあなたをグウェンは上目遣いで見つめ、あの頃のような無邪気な笑みで『お願い』をした。
「サンドラさんのケープも欲しいな」畳む

二次創作,NPC,掌編