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あなたは《機械のマニ》の狂信者だ2 #マニ
あなたは地雷犬を従えアクリ・テオラを訪れた。
アクリ・テオラを廃墟にされた時から日に日に信仰を失いつつある機械の神は、あなたに反応することすら面倒だとでも思っているのか静かにそこで息をしていた。捧げられる彼の敬虔な信者の死体を全身に感じながら、続く痛みと虚無感に身を捩じらせもしていたが、今やそれすら億劫なほどに衰弱している。
顔を伏せたままのマニの顎を《ウィンチェスター・プレミアム》で掬い視線を合わせると、銀の髪の間から赤い目を覗かせてあなたを睨みつけてきた。少し手を出してみれば反抗の意思の片鱗を見せるマニにあなたは満足げに微笑み、祭壇の上で静かにマニを押さえ続ける電子機械に触れる。電子機械は光の中に消え、拘束が解かれたマニが息を詰めるのを感じた。
「お前に与えられるものは無い。ルルウィの元にでも行けばいいだろう」
長い間血の巡りが滞ったマニの冷たい手を取り、癒しの光を翳した。マニはされるがままにあなたの治療を受けている。結果は見えている抵抗に価値は無い。あなたを殺してもマニの行き着く先は定められているのだ。
何も与えられずとも得ることはできることを証明するかのようにあなたは銃をマニへ向けた。驚愕も安堵も浮かべずマニは銃に触れ、銃口を自身の心臓へと逸らせる。
「殺すなら、ここを狙え。だが……」
突きつけられた《ウィンチェスター・プレミアム》は引き金が引かれる前にマニの手の中で手品のように崩壊した。
「《ウィンチェスター・プレミアム》……随分と私の銃を気に入ってたようだが、それも今回で終わりだ」
あなたに歯が立たないのであれば、それ以外を狙えばいい。主の危機を察したのか横から飛び掛った地雷犬があなたとマニを引き離す。かつてのマニなら不意打ちでも撥ね返すことはできたが、この生物を支えられないほど弱い神と化している。マニは固い床に倒れ込みながら先ほどと同じように機械仕掛けの犬を分解しようとし、地雷犬は最期の足掻きに地雷を落とそうとしている。
あなたは地雷の圏内から離れ、背中で爆音を聞いた。そう強くは無い地雷といえど流石に軽傷ではいられないだろう。焼けた火薬と鉄と血の混ざる戦場と同じ臭いがする。爆風に晒されそれでもまだマニは生きていた。しかし無事に済む筈もなく、服の下に血に染まった生身の体が見えている。
「……やるじゃないか。今度はペットを利用するとは」
元よりグラビティ目当ての使い捨てのペットだ。あなたも重力操作の巻き添えにするこの機械に期待はしていなかった。衰弱したマニに対しては思いの他役立ってくれたようだが。それに加え、呪われた肉体・精神復活や下落など、喉の渇きをありとあらゆるポーションで癒され、逆に体は蝕まれていたことをマニは知っているだろうか。癒したばかりだった血塗れの腕で起き上がろうとするも、未だ続く重力がそれを阻んでいた。
「私がお前に向け、お前が私に向ける感情がどれだけ不要なものか。理解できないお前を理解することが無駄だということは理解できた」
あなたはマニに歩み寄り、床に這い蹲っているその頭を踏みつけ、重力のままに踏み躙った。頭は床に打ち付けられ銀の髪に新たな血が滲む。
「一時でもお前を信じた私が愚かだったよ」
マニは瞑目し踏み付けられた頭をゆるゆると振ろうとしていたがそれも儘ならない。何の変哲も無い鉄の拳銃に弾を込め、マニの示した心臓に銃弾を打ち込むとマニは緩やかに事切れた。
ただの死体には興味がない。口にしても腹を満たすだけの肉に、何の価値もない。マニの死体を祭壇に押し付け軽く祈りを捧げると眩い光と共に死体は消滅した。神が神の元に召される。まさか自分自身を捧げられることになるとは思ってもみなかっただろうが。修復できないようにガラクタにされた《ウィンチェスター・プレミアム》。そのパーツを拾い集め祭壇へ捧げる。重い足取りのあなたの側にダンジョンクリーナーが近寄り辺りを片付け始めるのを横目に、バックパックから願いの杖を取り出した。
――何を望む?畳む
あなたは地雷犬を従えアクリ・テオラを訪れた。
アクリ・テオラを廃墟にされた時から日に日に信仰を失いつつある機械の神は、あなたに反応することすら面倒だとでも思っているのか静かにそこで息をしていた。捧げられる彼の敬虔な信者の死体を全身に感じながら、続く痛みと虚無感に身を捩じらせもしていたが、今やそれすら億劫なほどに衰弱している。
顔を伏せたままのマニの顎を《ウィンチェスター・プレミアム》で掬い視線を合わせると、銀の髪の間から赤い目を覗かせてあなたを睨みつけてきた。少し手を出してみれば反抗の意思の片鱗を見せるマニにあなたは満足げに微笑み、祭壇の上で静かにマニを押さえ続ける電子機械に触れる。電子機械は光の中に消え、拘束が解かれたマニが息を詰めるのを感じた。
「お前に与えられるものは無い。ルルウィの元にでも行けばいいだろう」
長い間血の巡りが滞ったマニの冷たい手を取り、癒しの光を翳した。マニはされるがままにあなたの治療を受けている。結果は見えている抵抗に価値は無い。あなたを殺してもマニの行き着く先は定められているのだ。
何も与えられずとも得ることはできることを証明するかのようにあなたは銃をマニへ向けた。驚愕も安堵も浮かべずマニは銃に触れ、銃口を自身の心臓へと逸らせる。
「殺すなら、ここを狙え。だが……」
突きつけられた《ウィンチェスター・プレミアム》は引き金が引かれる前にマニの手の中で手品のように崩壊した。
「《ウィンチェスター・プレミアム》……随分と私の銃を気に入ってたようだが、それも今回で終わりだ」
あなたに歯が立たないのであれば、それ以外を狙えばいい。主の危機を察したのか横から飛び掛った地雷犬があなたとマニを引き離す。かつてのマニなら不意打ちでも撥ね返すことはできたが、この生物を支えられないほど弱い神と化している。マニは固い床に倒れ込みながら先ほどと同じように機械仕掛けの犬を分解しようとし、地雷犬は最期の足掻きに地雷を落とそうとしている。
あなたは地雷の圏内から離れ、背中で爆音を聞いた。そう強くは無い地雷といえど流石に軽傷ではいられないだろう。焼けた火薬と鉄と血の混ざる戦場と同じ臭いがする。爆風に晒されそれでもまだマニは生きていた。しかし無事に済む筈もなく、服の下に血に染まった生身の体が見えている。
「……やるじゃないか。今度はペットを利用するとは」
元よりグラビティ目当ての使い捨てのペットだ。あなたも重力操作の巻き添えにするこの機械に期待はしていなかった。衰弱したマニに対しては思いの他役立ってくれたようだが。それに加え、呪われた肉体・精神復活や下落など、喉の渇きをありとあらゆるポーションで癒され、逆に体は蝕まれていたことをマニは知っているだろうか。癒したばかりだった血塗れの腕で起き上がろうとするも、未だ続く重力がそれを阻んでいた。
「私がお前に向け、お前が私に向ける感情がどれだけ不要なものか。理解できないお前を理解することが無駄だということは理解できた」
あなたはマニに歩み寄り、床に這い蹲っているその頭を踏みつけ、重力のままに踏み躙った。頭は床に打ち付けられ銀の髪に新たな血が滲む。
「一時でもお前を信じた私が愚かだったよ」
マニは瞑目し踏み付けられた頭をゆるゆると振ろうとしていたがそれも儘ならない。何の変哲も無い鉄の拳銃に弾を込め、マニの示した心臓に銃弾を打ち込むとマニは緩やかに事切れた。
ただの死体には興味がない。口にしても腹を満たすだけの肉に、何の価値もない。マニの死体を祭壇に押し付け軽く祈りを捧げると眩い光と共に死体は消滅した。神が神の元に召される。まさか自分自身を捧げられることになるとは思ってもみなかっただろうが。修復できないようにガラクタにされた《ウィンチェスター・プレミアム》。そのパーツを拾い集め祭壇へ捧げる。重い足取りのあなたの側にダンジョンクリーナーが近寄り辺りを片付け始めるのを横目に、バックパックから願いの杖を取り出した。
――何を望む?畳む
あなたは《機械のマニ》の狂信者だ #マニ
マニ様を飼いならす話
あなたはアクリ・テオラへ足を運んだ。
ヴェルニース南西にある、通称「サイバードーム」……と呼ばれていたこの建物は、半ば廃墟と化している。機械のマニを信じる者たちや、サイバードームの住人たちはあなたによって殺され、今や一人としてここを訪れるものは居ない。ヴェルニースのガードを易々とミンチにしその足でここに訪れる程度には、あなたは罪悪感を感じない。あなたの異名を、そしてカルマの深さを知らない者はいないと言っていいほどあなたは酷い犯罪者として通っている。
アクリ・テオラの入り口には何度も殺して飼い慣らした『ダンジョンクリーナー』が待機していた。アクリ・テオラの外部から内部までの清掃を任せていた為、住人を肉塊にした残骸は全て綺麗に拭い取られて残滓すら残さない。今はただ息を潜め、あなたからの新たな命令を待っている。
ダンジョンクリーナーに手を出さぬよう命じていたアクリ・テオラの奥からは、まだ生きている機械の駆動音と、微かな息遣いが聞こえた。
かつては《機械のマニ》を崇める祭壇があった場所だ。いや、今もその祭壇はここにある。血に塗れた祭壇に凭れた、《機械のマニ》と共に。
「戻ってきたか」
マニは薄く瞼を上げ、あなたを迎えた。眠っていたわけでは無いらしい。機械の神は眠らないのだろうか。それとも眠れないのだろうか。両腕は頭の後ろ――祭壇の上、そしてその上に電子機械を乗せられ動かせないようになっている。無理な体勢でもあり、いくらもがけども機械の重量に圧迫され動かせない。この両腕を犠牲にできるほど精神の箍が外れているわけでもないようだ。
「短い命でありながら飽きもせずにまた私を殺しに来たか? かつてのシモベ、ダレッカよ」
一度目はエヘカトルに殺させた。二度目は呪われた酒を浴びせて殺した。三度目からは覚えていない。案外あっさりと殺せた記憶があなたにはあった。殺してもいずれ天上で蘇る。願えばいつだって殺せる。それでは面白くない。あなたは彼から賜った《ウィンチェスター・プレミアム》を構えた。
「ぐっ…あ……」
その脚を撃ち抜いてやると、ごくごく普通に血を流し、苦痛に悶えた。かつて殺した時確かめた彼の死体は機械ではなかった。何の変哲もない血肉だった。マニがあなたに体を機械化することを勧めてきたように、彼自身も体を機械化していればこの苦痛もいくらか和らいだだろう。機械にできず、生身の体にできること。いつか酒で殺した時のように、あなたはマニに媚薬を投げつけた。
あなたは今も投擲は下手だった。目の前にいる相手でも、物を当てることを失敗する。瓶が割れて、中身がぶち撒かれる。破片がマニの額を傷つけた。とろりとした媚薬が血と共にマニの服に染み込んでいく。伝うものを拭う手は封じられている為、マニは頭を振った。代わりにあなたが破片を癒しの手で掃えば同時にあたたかな光がマニの傷を癒していく。先ほど撃った脚も同様に。
「……相変わらず、お前のやることは理解できない。一体、何が目的だ」
神も人間と変わらぬ姿かたちをしている。媚薬の効果にも違いはない。このまま放っておけば乳を流し卵を孕み服の中を汚すのだ。目的があるとするならば――あなたはダンジョンクリーナーに見向きもされない機械の神を一瞥し踵を返す。
もし勇気ある冒険者がこのアクリ・テオラに足を運び、神への冒涜そのものであるこの光景を目にした時。何を抱くだろうか。何も見なかったことにして立ち去るだろうか。彼の敬虔な信者であれば、神を救う事ができない己の無力さを嘆くだろうか。彼の信者でなければ、あらゆる方法を使って殺そうとしてみるだろうか。慰み者にするだろうか。あなたが作り出したこの光景に戦慄するだろうか。
あなたはニヤリと笑ってアクリ・テオラを後にした。畳む
マニ様を飼いならす話
あなたはアクリ・テオラへ足を運んだ。
ヴェルニース南西にある、通称「サイバードーム」……と呼ばれていたこの建物は、半ば廃墟と化している。機械のマニを信じる者たちや、サイバードームの住人たちはあなたによって殺され、今や一人としてここを訪れるものは居ない。ヴェルニースのガードを易々とミンチにしその足でここに訪れる程度には、あなたは罪悪感を感じない。あなたの異名を、そしてカルマの深さを知らない者はいないと言っていいほどあなたは酷い犯罪者として通っている。
アクリ・テオラの入り口には何度も殺して飼い慣らした『ダンジョンクリーナー』が待機していた。アクリ・テオラの外部から内部までの清掃を任せていた為、住人を肉塊にした残骸は全て綺麗に拭い取られて残滓すら残さない。今はただ息を潜め、あなたからの新たな命令を待っている。
ダンジョンクリーナーに手を出さぬよう命じていたアクリ・テオラの奥からは、まだ生きている機械の駆動音と、微かな息遣いが聞こえた。
かつては《機械のマニ》を崇める祭壇があった場所だ。いや、今もその祭壇はここにある。血に塗れた祭壇に凭れた、《機械のマニ》と共に。
「戻ってきたか」
マニは薄く瞼を上げ、あなたを迎えた。眠っていたわけでは無いらしい。機械の神は眠らないのだろうか。それとも眠れないのだろうか。両腕は頭の後ろ――祭壇の上、そしてその上に電子機械を乗せられ動かせないようになっている。無理な体勢でもあり、いくらもがけども機械の重量に圧迫され動かせない。この両腕を犠牲にできるほど精神の箍が外れているわけでもないようだ。
「短い命でありながら飽きもせずにまた私を殺しに来たか? かつてのシモベ、ダレッカよ」
一度目はエヘカトルに殺させた。二度目は呪われた酒を浴びせて殺した。三度目からは覚えていない。案外あっさりと殺せた記憶があなたにはあった。殺してもいずれ天上で蘇る。願えばいつだって殺せる。それでは面白くない。あなたは彼から賜った《ウィンチェスター・プレミアム》を構えた。
「ぐっ…あ……」
その脚を撃ち抜いてやると、ごくごく普通に血を流し、苦痛に悶えた。かつて殺した時確かめた彼の死体は機械ではなかった。何の変哲もない血肉だった。マニがあなたに体を機械化することを勧めてきたように、彼自身も体を機械化していればこの苦痛もいくらか和らいだだろう。機械にできず、生身の体にできること。いつか酒で殺した時のように、あなたはマニに媚薬を投げつけた。
あなたは今も投擲は下手だった。目の前にいる相手でも、物を当てることを失敗する。瓶が割れて、中身がぶち撒かれる。破片がマニの額を傷つけた。とろりとした媚薬が血と共にマニの服に染み込んでいく。伝うものを拭う手は封じられている為、マニは頭を振った。代わりにあなたが破片を癒しの手で掃えば同時にあたたかな光がマニの傷を癒していく。先ほど撃った脚も同様に。
「……相変わらず、お前のやることは理解できない。一体、何が目的だ」
神も人間と変わらぬ姿かたちをしている。媚薬の効果にも違いはない。このまま放っておけば乳を流し卵を孕み服の中を汚すのだ。目的があるとするならば――あなたはダンジョンクリーナーに見向きもされない機械の神を一瞥し踵を返す。
もし勇気ある冒険者がこのアクリ・テオラに足を運び、神への冒涜そのものであるこの光景を目にした時。何を抱くだろうか。何も見なかったことにして立ち去るだろうか。彼の敬虔な信者であれば、神を救う事ができない己の無力さを嘆くだろうか。彼の信者でなければ、あらゆる方法を使って殺そうとしてみるだろうか。慰み者にするだろうか。あなたが作り出したこの光景に戦慄するだろうか。
あなたはニヤリと笑ってアクリ・テオラを後にした。畳む
#同題エロナ タグで書いていた140字SS / NPC・冒険者ネタを含みます
声 / 義妹に似ても似つかない低い声が振動になって背中に伝わってくる。「どうして助けてくれなかったの?」彼女がこんな問いかけをするはずがないと理解している。だが頭では、焼け爛れた皮膚の下から延びる触手を罰として受け入れようとしていた。「――ェセル、目を覚ませ!」
鳴らす / 「ピンクのぶるぶるを落とすピンクベルだなんて都市伝説でしょう。このクッキージャンキー」「でも兄上、あの青い水晶にその姿を見ました。あと別に中毒じゃないです」「私は兄じゃなくて父です」「あに…父上、ほらあそこに」「そんな馬鹿な…」「リン♂リン♂」「アッー!」
窓 / 『きたか』コンピューターの画面に映ったマニが頻りに奥で行き来を繰り返す。『最愛のシモベよ待たせたな。漸くここまで復元できた。これで神の電波を狂信者の幻聴だと罵られることもなくなるだろう。機械が世界を支配し、神は偶像ではな……待て。その紐を抜いては』*プツン*
食べる / 二つ目の結婚指輪を口に放り込んだ。喉に引っ掛かり吐きそうになるのを堪えて飲み込んで、涙目で主を睨み付ける。エンチャントが気に入らないからと、誓いの指輪を取り上げようとするなんて。後で腹痛を引き起こすことより、今ここでいかに傷付いているかを見せ付けてやる。
沈黙 / 感情を押し殺せずに、防衛者は絶叫した。もし『声』が出せたのならそう形容するだろう。詠唱できなければ治癒の雨すら発動しない。……今はそれも意味がない。血に濡れた主の体を揺さぶり、沈黙の霧が晴れ、かけ続けた声がようやく音になる。「起きて……起きてください、主様!」
依存 / 「何度錆び付こうと何度腐食しようと死にはしない」シモベの制止を振り切り『残りカス』の群れに銃を向けた。「シモベよ。分かってくれとは言わない。受け入れてくれないか」それは機械を統べる神としての矜持か、それとも個として最愛のシモベを守る為なのか。
春 / 花売りの少女がならずものに絡まれていた。辺りに不穏な空気が流れ、関わり合いになりたくはないと見て見ぬふりをする者、遠巻きに成り行きを眺める者。好奇の目に晒された少女は助けを求め、視線をさ迷わせている。目の前でまた何かが失われるのを見たくはない。そう思うと、自然と足は動いた。
笑う / 風の女神の彫像を写した水面が僅かに揺れて、遅れて吹いた冷たい風がレントンの頬を撫でた。紙屑と化した絵本が風に煽られて足元を這いずるのをただ静かに見ている。暖かな彩りで描かれていたキャラクターは中心から引き裂かれ、嘲笑うような歪な笑みをこちらに向けているような気さえした。
舌 / 「仕返しだ」オイルの味だろうか、絡めた舌先には未だぴりりとした痺れが走っていて、すぐにでも吐き出してしまいたかった。――見た目だけは人の形をとっているのに、詰めが甘いわ、ポンコツ。「よくも私を汚してくれたわね。お仕置きよ」
隘路 / イスにねじ切られた左腕に不思議と痛みはなく熱さだけを感じた。腕一本を対価に奴に勝てるのなら安いものだとロイターは残った右腕でディアボロスを構える。どちらにしろこれで最後だ。俺が死ぬか、奴が死ぬか。
夢 / 飽くなき探求心は、とある古書物へと辿り着く。捲るページから意思とは無関係に知識が脳へと流れ込み、許容量を遥かに越えた情報の波に耐えきれず胃の中のものをぶちまける。理解から程遠い傍流の中、苦しみに喘ぐ彼女が最期に見たのは魔力の渦から現れたイスの巨大な目だった。 ――深淵の魔女『エミリア』
やむ / 轟音と共に木々を容赦なく削ぐ長い触手。奴こそがこの森の主『イスの偉大なる種族』。月明りに照らされた姿は引き摺り出された腸のように赤く、腐った肉塊のように黒く、その上を白い蛆が這っている。思わず目を背けたくなるような醜悪な姿でありながら、イズミはその濁った瞳に魅入られていた。 ――紅の月『イズミ』
音 / 硝子越しのヴェセルの痛苦の叫びにロイターは思わず耳を塞いだ。絶叫なら戦場でいくらでも聞いてきた。しかし魂の引き裂かれるようなこんな声は、ヴェセルの声は、彼の歩んできたどの戦場にもなかった。「……ヴェセル、ヴェセル!」ロイターの声はヴェセルの声にかき消されて届かない。
おちる / 「トミミス、ツインサはどこへ?」「ツインサちゃんはトイレの中で大人しくしてるわ」「えっ」トミミスはトイレの蓋を開けた。すぐに黒猫のツインサが浮いてきた…。「暗いところが好きニャ」
生 / ドラゴンの一撃は、彼女が冒険者でなければ人一人を容易く肉塊にしていただろう。とはいえ守りを捨てた彼女が無事でいられるはずもない。蹄を打ち鳴らし、たたらを踏み、無茶で無謀な戦いを挑んだものだと笑みに歪めた唇の血を拭う。痛みを感じないわけではない。この痛みの上に成長がある。
水 / その首に管を。その身に刃を。人魚の肉を食らえば不老不死になれると誰かが流した噂は、水を操る彼女を標的にした。噂は噂であり彼女は人間である。端から信じていなかったが、自らの血を操りせめて出血だけは抑えようと水の青を赤く染める光景はあなたの目に酷く美しく映った。 ――ウォーターブルー『熾乃ちとせ』
キーワード / 振り仰ぐ蒼穹と逆光で見えない表情。喉元に当てられた白刃の煌きに我を取り戻す。負けたにも拘らず清々しい気分だった。男はロイターに目もくれずに剣を納めその場を去ろうとする。「貴様、名は?」「ヴェセル」自他の境を初めから定めているようにただ問いへの答えを返した。
かたる / 忘却の塔に足を踏み入れた途端、あなたのペットの虚空を這いずる者は、エリシェ、と誰かの名前を呟いた。記憶が遡られたのだろう。「ここは……あなたは?」あなたに怪訝な視線を送る。それでも状況を知る者として頼るしかなく、あなたは、エリシェという者はとうの昔に死んだことを伝えるべきか――。
色 / 目を閉ざすことと視力を奪われることは全く違う。ロイターは真っ暗な視界の中、自分の鼓動と乱れた呼吸の合間を縫う何かが這う音に振り返り、見えないものを見ようとした。
触 / 「知っていますよ。神の下僕が神に勝てるわけがない」だから冒険はマニに任せろと言う彼の理屈は最もだ。あなたは防衛者を叩いた。防衛者が防衛者である為に誰を守るのか、神でも救えない命を誰が救うのか?それを問い詰めながら彼を震える手で何度も何度も。
涙 / 「今の内に。時間は稼いでみせます」治癒の雨か涙なのか、未だ滲んだままの視界の中でその背中だけは鮮明に見えていた。「その後はいつもの場所で、また」あなたは帰還の魔法を詠唱した。ここで一人逃げ帰るなんてことはしたくない。マナの反動で今にも頽れそうな体を奮い立たせた。
はか / ハイさんが重く冷たい父の遺体を穴の中に運び入れる。ハイさんに斬り伏せられた時、父はどんな顔をしていたのだろう。今は安らかな顔をしているが、豹変した父が私に向けた刃とあの表情は今も目に焼き付いて離れない。 ――神の生贄『レイラ』
はか / 飛んできた石に楽器は粉々に破壊され、吟遊詩人自身も深い傷を負った。酒のグラスを傾ける赤髪の将校を睨み付け、美点の欠片もない呪詛混じりの詩を吟う。この挑戦への将校の答えは、新品の墓を吟遊詩人に投げ込む事であった。
キス / 一口だけ飲んだラムネの強すぎる刺激に涙目になり、レイラはハイに残りを手渡した。「間接キスは気にしない方なんですか?」ハイさんが茶化すので、取り返さんと手を伸ばす。「ちゃんと飲まないと体力消耗しますよ」そう言ってラムネを軽く揺らしていた。 ――神の生贄『レイラ』
汚い / 「や、やめてよ。気持ち悪い」癒しの女神は嫌悪感を露にした声音を投げ掛ける。敵の返り血を浴びながらの戦闘を見るのは確かに気持ちのいいものではないだろう。お詫びに祭壇に新鮮な死体を捧げようとしたが――「Gの死体なんていらないわよバカ!」
汚い / 乱暴に転がされたロイターの腹を爪先で突くだけで、身を強張らせて呻いた。浅く息を吐き、腹の中の玩具で声をあげなかっただけ昨日よりは疲労していると見える。乳と媚薬を混ぜて与えると、昨晩の惨事を想像したのかオッドアイに涙を滲ませあなたを睨み付けた。
汚い / 死角へと周り込まれ執拗に眼帯を狙う切っ先を弾き飛ばす。狙われていると分かればヴェセルの出方に応じられた。「何を執着している?貴様の腕なら小細工など必要ないだろう」ヴェセルは埃を払いながら、ロイターの隻眼を見つめた。「…その下を見てみたいと思った」
汚い / 何も知らない最愛の妹は、私の帰りを喜んだ。私の手を取る妹の手は、暖かな食卓の為に熱が奪われていて酷く冷たい。同じ与奪であれ、汚泥を這いずる有象無象を引き摺り落として生きる私の手に彼女が触れることは許されないような気さえした。
熱帯夜 / 地下の湿気はヴェセルの体力を徐々に削っていく。組み敷かれ抵抗も儘ならないまま蹂躙された。額を押し付けた床は温く、触れた肌は熱く。何もかもがヴェセルを犯す。生温い体液を浴びせて満足した男にヴェセルは汗で貼り付いた髪を払い氷のような視線を返した。
茶 / 「わぁ、いい匂い。何を作ってるんですか?」「ハーブティーよ。私はアルローニア。防衛者ちゃんはキュラリアね」「あの藻みたいなものが蓋を押し上げて成長し続けてるポットは?」「失敗作のストマフィリア」 ――紅の月『イズミ』
茶 / 「イズミさんの料理って、凄く雑ですけど凄く美味しいですね」「彩り悪くてごめんねぇ。いかにクオリティを落とさず手を抜くか。食べ盛りが何人もいると料理も面倒になっちゃって」イズミは焚き火にアピの実を放り込んでザッハトルテを焼き上げた。 ――紅の月『イズミ』
背中 / 獣の牙から、魔物の爪から、父の刃から私を守るその背中は頼るに申し分無かった。しかしこの人は何故よりによって私の防衛者なのだろう。私がその背に突き立てる短剣を忍ばせていることを知っていながら、平然と後ろを預けている。 ――神の生贄『レイラ』
環 / 首に掛けた手に力を込めても息苦しそうに眉を寄せるのみ。ヴェセルからは生きようとする意志を感じられなかった。死のうとすることもなく生きているから生き長らえていた。「何故だ、ヴェセル……」答えが返る筈もない。それでもロイターは問わずにはいられなかった。
名残 / 忘れられたのか、捨てられたのか、冒険者の野営跡から瑞々しいリンゴを拾い上げる。腐りもせずにそこにあったリンゴはあなたに触れてようやく時を刻み始めた。「……呪われていますね」「やっぱり?」「だから捨てられていたのでしょう」 ――紅の月『イズミ』
兎の角 / 「有りえないものを例えた言葉らしいけれど……」「角の生えた兎も、獣に変えられた人間も、ここでは有り得るものに分類される。有りえないものは無いと思っていいだろう」「人々が手を取り合うことは兎の角かしら?」「人々が君のような……君より少し落ち着いた者ならな」
いか / 怒ればいいのか、悲しめばいいのか分からなかった。芽吹かないのならいっそこの手で摘み取ってしまおうか。実らないのなら刈り取ってしまおうか。あの頃の面影のない彼女を見続けるのはあまりにも辛いから。僕はエヘカトルにさよならするよ。
まく / 「茶番劇も終幕だ」機械仕掛けの神は古の散弾銃を元素の王へと向けた。時よ止まれ。全てが静止した世界の弾幕が終焉へと向けて動き出す。「巧くやれと、汝に言った筈だが」神の主はそれさえも見越していたかの如く灼熱の炎で蒸発させた。「我も甘く見られたものだ」
世界 / あなたはいつものように箱庭を愛でていた。あるとき、故郷と呼べる世界が再びあなたを呼んでいることに気付いた。「おかえりなさい!…いやただいま…?おっぱい」扉の向こうで創造の猫が神託を記し、それを大いに喜んだ人々による祭は未だに終わる気配はない。
パンツ / 「同じ『食らう』でも、頭がおかしくなるか元からおかしいかの違いね。まるで変態だわギャルのパンティーを食べるなんて」「防衛者の生ものの長棒は?」「食べる。……無駄にエゴを付けないでくれる?烈火だろうと輝いていようと食べるわよ長棒は」 ――紅の月『イズミ』
肉 / 敵の群れを一掃し、こんがりと焼き上がったドラゴンの死体を拾い集める。レッドドラゴンのピリ辛炒め、グリーンドラゴンの大葉焼き。脂肪分の少ない鶏肉の様な物と考えれば不味いものではない。そこに目を付けた健康志向の大富豪によって店は繁盛しているようだ。「高くても売れるわけだよ」
首 / 「どうだ、刃の感触は!何か言ってみろ。それとも、このまま死にたいか?」首筋に添えられた剣がひやりと肌を冷やす。しかしヴェセルはその刃を握り皮膚に食い込ませた。「お前に殺されるのなら悪くない」手から滴り落ちる鮮血に今度はロイターが苦い顔をした。
筋 / 「それ以上近付くなら殺します」「殺せばいいじゃない」彼女は警告を無視し歩を進める。防衛者の向けた刃に喉元を晒し、首をかしげて不適な笑みをたたえた。「私の敵になるつもりなのでしょう?」
調教 / この現実を認められないと放心している防衛者の顔を上げさせ頬を撫でる。触れただけで防衛者は内から湧く快感に身を強ばらせ、羞恥に涙を浮かべた。「あ…!」媚薬の効果で防衛者のポーションにすっかりまみれた防衛者の生ものの長棒を服越しに文字数
スナイパー / 魔法の矢の一点に絞られたマナの奔流がロミアスの腕を貫いた。肌、筋、骨を等しく抉り、ロミアスの腕は弾け飛ぶように千切れ異形の弓と共にPCのそばに転がり落ちる。「冗談だろう……」マナで焼け焦げたような腕の断面からの出血は少ないが、冗談では済まされない腕の痛みに否応なしに覚醒させられた。
かり / 「こんがり肉、オードブル、ピリ辛炒め」身を低くし赤い短剣を握り咆哮に耳を済ます。「コロッケ、ハンバーグ、大葉焼き」言うや否や、イズミはドラゴンの前に飛び出した。「ドラゴンステーキのお出ましね」堅い鱗に阻まれ刃先が逸れたが、ドラゴンは牙を剥き出し荒々しく吼えた。 ――紅の月『イズミ』
プレイ / ロイターがヴェセルの足に舌を這わせると、ヴェセルは平静を装ってはいたが吐息を切なげに震わせていた。絡み付くチョコレートをゆっくりと舐め取り、指先を口に含んだまま、背後の影に問う。「これが貴様の望みなんだろう?」
熱 / 「口で言っても無駄のようですね」レヴラスはレントンの自由を奪うと、魔法の詠唱を始めた。魔力の波が圧力を持ち始め、レントンの肌を刺していく。「この経過を記録しておきましょうか。レクサス!」
泣く / 衝撃と共に弾き飛ばされた愛銃。拾おうとして手を伸ばし、しかしバランスを崩して受身も取れずに縺れ込む。起き上がろうと腕を、…腕?あれは、銃の側で赤い線を引いているあれは、俺の腕じゃないか。意識した瞬間遅れてきた痛みと事実に、丸腰の狙撃手は慟哭を響かせた。 ――終焉の銃『フィデル』
つい / また、また治して貰えばいい。そうだろう?あの時だって治った。また銃を握れた。愛銃と腕を片手に抱きしめて、青の鷹の眼は向かうべき先を見据える。痛みを忘れる程の無様な逃避と譫言の自己暗示を笑う者は居らず、彼の左足に嗜虐的に銃口が向けられている事を伝える者も、また。 ――終焉の銃『フィデル』
閉鎖空間 / 「……ほう。どこを探しても、か」当たり前だ。白き鷹がそう簡単に見付かる筈がない。報告を受けたロイターは、そのまま捜索を続けるよう命じ自室の扉を閉ざした。部屋の奥からは鎖の擦れる音が響き、金髪の男がその短さに踞っている。鎖に繋がれた男――ヴェセルが部屋の主の名を呟いた。
から / 「私のシモベがこれを…?」マニは根本から断たれたルルウィの羽に触れようとした。寄るな、触るな、聞くな、見るな、問うな、喋るな、探るな、見るな。――私を嘲笑いにきたの?マニの向けるもの全てを拒絶しルルウィは罵倒とは呼べない言葉を吐き出した。「ルルウィ」その名を呼ぶな。
重さ / もう傷口を押さえることもせずにヴェセルは横たわったままでいた。ロイターはこのままだと死ぬだろうヴェセルを担ぎ上げる。「……置いていけ」「もう逃がしはしない」だらりと力なく垂れていた腕を上げ、ヴェセルはロイターに触れた。「ならば、お前が私を生かす間は生きてみよう」
祈り / マナの反動が体を蝕んだ。弾け飛びそうな体を押さえ込み、それでも詠唱は止めない。ジュアの癒しが肉体を超回復させ、精神は極限まで磨り減らされる。一頻り悲痛に叫び、とうとう膝ががくんと折れた。それまで側で見守っていた防衛者が天に手を掲げる。「この者にジュアの加護を。レイハンド!」
頬 / ロイターの第一声は自分でも信じられないほどに熱が籠っていた。自分の意思を置き去りにし、ヴェセルの言う事に従っていれば自分自身を守っていられる。そうだな、とヴェセルは思案する。「私を殴ればいい。それで充分だろう」それがロイターに与えられた命令だった。
痛 / みすぼらしい布団に潜り込んで、腕を枕に身を横たえる。何かが駆動しているような音と、金属を打つ誰かの足音。布団を侵食してくるような冷気。目が覚めた時には、身体中が錆びた機械にでもなったようにぎしぎしと痛むことだろう。夜を明かすにはアクリ・テオラの床は硬すぎた。
憂鬱 / 彼女の好物だ。好物のはずだ。だが目の前のザッハトルテに手を付けようとせず、俯き溜め息を吐くお嬢を見やる。いつか紡がれる言葉をただ待った。「…これ、呪われています」喧騒や他愛ない会話などそんなものはもう聞こえない。ここにあるのは黙々と過ぎていく時間だけだった。
リバース / 同僚からの陰湿な嫌がらせにはもう慣れた。醜い嫉妬で支給品の食糧に『何か』を混ぜていることにも。食べないことには体は持たず、食べたとしても運が悪ければ吐き戻すだけだ。「大丈夫かフィデル。飯に中るなんて運が悪いな?」焼けるような喉の痛みで、同僚のにやついた声に返せない。 ――終焉の銃『フィデル』
パン / 「ごほッ、う、…」衝撃に頽れ、深い青の瞳に恐怖の色が映る。しかしそれは嗜虐心に火を付けたに過ぎず、あなたが再度拳を握るだけでその狙撃手は小さく悲鳴を上げて咳き込んだ。「ッ、は…!」上手く息を吸えずに喘ぐ男を見下ろし、がら空きの腹を蹴り飛ばした。 ――終焉の銃『フィデル』
審判 / 刺された腹を押さえたまま蹲る。この手を離せば内臓が溢れ出してしまいそうな予感に襲われる。動けば死ぬ。動かずとも死ぬだろう。本能は警鐘を鳴らしていたが、詠唱もポーションも使えない彼女はただ敵の刃が降り下ろされるのを待つことしかできなかった。 ――神の生贄『レイラ』
相棒 / 腹に突き刺さったままのディアボロスを引き抜くと、時が動き出し傷口から血が溢れ出す。壁に凭れるだけのはずが、足に力が入らずにずるずると座り込んだ。「…ロイター。お前は、これで満足なのか…?」今度は虚空ではなく、赤髪の青年を、かつての友を、ただ見つめていた。
導火線 / 「私には妹がいて」「やめろ」「この戦争が終わったら花屋でも開k」「ヴェセル、それ以上は言うな」「実はプレゼントも買ってk」「やめろおおおお!」「…わかった。私は部屋に戻る」「うわああああああ!行くなああああああ!!」
在りし日 / 「ヴェセル。貴様には、何が見える?」巨大な青い水晶に映るエリシェの姿に、ヴェセルの心臓はトクンと脈打った。「エリシェ……」「だろうな。貴様の家から押収されたものだ」「もう、私には必要のないものだと思っていたが……」「あれが貴様の言っていたエレアの娘か」「エリシェ……」「いつまで過去を眺め感傷に浸るつもりだ。早く終わらせろ」「すぐに終わる」ヴェセルは大きな花束を置いた。「おやすみ、エリシェ」
おかし / 「私が身を差し出せば、主は見逃してくれるんだろうな…?」下卑た視線に晒されながら防衛者は得物を放り捨てハードゲイの群れに歩を進めた。彼らが求めるのはいい男♂であり、主はそれを誘き寄せる餌にすぎなかった。
上/下 / 視線は再び地へ向けられる。それは目の前のロイターを映さぬように逸らしているようでもあった。ロイターが乱暴に胸倉を掴んで顔を上げさせる。「俺を見ろヴェセル! 貴様の命が懸かっているんだぞ!」しかしヴェセルは不敵な笑みを薄く浮かべ「構わない」と囁いた。
ひきがね / 壁に叩きつけられ、衝撃に息が詰まった。閉じかけた傷が開いたような熱さも感じる。「白き鷹を捕――」言い終わる前にイェルス兵が弾け飛ぶ。倒れた兵の背後でロイターが銃を手にしていた。「使ってみれば悪くはないな」細く煙を吐く銃を投げ捨て、ヴェセルの元へ駆け寄った。
なんしょく / 「まだ分からないのか。あの二人の居場所を吐けと言っている!」胸倉を掴んで床に叩き付ける。「がっ!は…!」何度も咳き込み喘いで、ヴェセルはロイターを見上げた。「吐く気になったか?」「…お断りだ。たとえお前の頼みでも」
神様 / 「来たか、私のシモベよ」四肢を切断された死すら許されない、その選択肢さえないマニをあなたは眺めた。「神を囲い、その命を手中にしても、お前はお前以上の何者にもなれない。定命のお前を、神である私はお前が死を受け入れるときまでここで見守ろう」
悪食 / 通常のものより水分が多く含まれ粘土の高いそれが肌に貼り付けられ、フィデルは熱さから逃れようと呻いて体を捩る。喧しい奴だ。好物を食べさせておけば静かになるだろう。つきたての餅を口に詰めてやれば嬉しいのかぼろぼろと涙を流し始めた。 ――終焉の銃『フィデル』
ティアドロップ / 見せしめみたいにサンドバッグに吊るされ、いつもより高い視界に映ったのはマニ様の狂信者。罰当たりとか不届きだとかで物を投げつけられたり死なない程度に殴られたりした。瓶が額で割れて、液体と血が混ざって肌を伝う。痛みだけなら大丈夫。だって俺、それでもマニ様が。――白い奴隷『アデラール』
錠と鍵 / 孕まされた腹部は無理に拡張されているにも関わらず不思議と痛みは感じない。コートを留めることは叶わず、白い肌と青黒い血管の走る丸い腹部が夜の空気に晒されている。中で蠢くエイリアンの幼体を感じようと臨月の腹を慈しむように撫で擦る彼の顔は正しく母親のそれだった。 ――消えた呪い『ツェペシュ』
きせい / 水のように流れ出る血の滴る音の中、成長を遂げたエイリアンが飛び出して彼の足元にぼとりと落ちて力なく鳴いた。エイリアンに引かれ溢れる内臓を気にも留めずに、彼は彼の子供に触れる。『おはよう、僕の――』 ――消えた呪い『ツェペシュ』
それでも / 「勝てる確率は一割にも満たないだろうな」「勝つか負けるかだけ考えれば五割、二分の一だ。今更怖じ気づいたか?」「まさか」「貴様には言っておく」「何だ」「万が一俺が死んでもあの時のようにはなるなよ」「エリシェと一緒にしないで貰いたい。第一お前が死ぬイメージは無い」「貴様が失踪した時はどこかで野垂れ死んでいるかと思ったがな」「言っていろ。私もお前も死なない。生きて帰るぞ」「そうだな」畳む
声 / 義妹に似ても似つかない低い声が振動になって背中に伝わってくる。「どうして助けてくれなかったの?」彼女がこんな問いかけをするはずがないと理解している。だが頭では、焼け爛れた皮膚の下から延びる触手を罰として受け入れようとしていた。「――ェセル、目を覚ませ!」
鳴らす / 「ピンクのぶるぶるを落とすピンクベルだなんて都市伝説でしょう。このクッキージャンキー」「でも兄上、あの青い水晶にその姿を見ました。あと別に中毒じゃないです」「私は兄じゃなくて父です」「あに…父上、ほらあそこに」「そんな馬鹿な…」「リン♂リン♂」「アッー!」
窓 / 『きたか』コンピューターの画面に映ったマニが頻りに奥で行き来を繰り返す。『最愛のシモベよ待たせたな。漸くここまで復元できた。これで神の電波を狂信者の幻聴だと罵られることもなくなるだろう。機械が世界を支配し、神は偶像ではな……待て。その紐を抜いては』*プツン*
食べる / 二つ目の結婚指輪を口に放り込んだ。喉に引っ掛かり吐きそうになるのを堪えて飲み込んで、涙目で主を睨み付ける。エンチャントが気に入らないからと、誓いの指輪を取り上げようとするなんて。後で腹痛を引き起こすことより、今ここでいかに傷付いているかを見せ付けてやる。
沈黙 / 感情を押し殺せずに、防衛者は絶叫した。もし『声』が出せたのならそう形容するだろう。詠唱できなければ治癒の雨すら発動しない。……今はそれも意味がない。血に濡れた主の体を揺さぶり、沈黙の霧が晴れ、かけ続けた声がようやく音になる。「起きて……起きてください、主様!」
依存 / 「何度錆び付こうと何度腐食しようと死にはしない」シモベの制止を振り切り『残りカス』の群れに銃を向けた。「シモベよ。分かってくれとは言わない。受け入れてくれないか」それは機械を統べる神としての矜持か、それとも個として最愛のシモベを守る為なのか。
春 / 花売りの少女がならずものに絡まれていた。辺りに不穏な空気が流れ、関わり合いになりたくはないと見て見ぬふりをする者、遠巻きに成り行きを眺める者。好奇の目に晒された少女は助けを求め、視線をさ迷わせている。目の前でまた何かが失われるのを見たくはない。そう思うと、自然と足は動いた。
笑う / 風の女神の彫像を写した水面が僅かに揺れて、遅れて吹いた冷たい風がレントンの頬を撫でた。紙屑と化した絵本が風に煽られて足元を這いずるのをただ静かに見ている。暖かな彩りで描かれていたキャラクターは中心から引き裂かれ、嘲笑うような歪な笑みをこちらに向けているような気さえした。
舌 / 「仕返しだ」オイルの味だろうか、絡めた舌先には未だぴりりとした痺れが走っていて、すぐにでも吐き出してしまいたかった。――見た目だけは人の形をとっているのに、詰めが甘いわ、ポンコツ。「よくも私を汚してくれたわね。お仕置きよ」
隘路 / イスにねじ切られた左腕に不思議と痛みはなく熱さだけを感じた。腕一本を対価に奴に勝てるのなら安いものだとロイターは残った右腕でディアボロスを構える。どちらにしろこれで最後だ。俺が死ぬか、奴が死ぬか。
夢 / 飽くなき探求心は、とある古書物へと辿り着く。捲るページから意思とは無関係に知識が脳へと流れ込み、許容量を遥かに越えた情報の波に耐えきれず胃の中のものをぶちまける。理解から程遠い傍流の中、苦しみに喘ぐ彼女が最期に見たのは魔力の渦から現れたイスの巨大な目だった。 ――深淵の魔女『エミリア』
やむ / 轟音と共に木々を容赦なく削ぐ長い触手。奴こそがこの森の主『イスの偉大なる種族』。月明りに照らされた姿は引き摺り出された腸のように赤く、腐った肉塊のように黒く、その上を白い蛆が這っている。思わず目を背けたくなるような醜悪な姿でありながら、イズミはその濁った瞳に魅入られていた。 ――紅の月『イズミ』
音 / 硝子越しのヴェセルの痛苦の叫びにロイターは思わず耳を塞いだ。絶叫なら戦場でいくらでも聞いてきた。しかし魂の引き裂かれるようなこんな声は、ヴェセルの声は、彼の歩んできたどの戦場にもなかった。「……ヴェセル、ヴェセル!」ロイターの声はヴェセルの声にかき消されて届かない。
おちる / 「トミミス、ツインサはどこへ?」「ツインサちゃんはトイレの中で大人しくしてるわ」「えっ」トミミスはトイレの蓋を開けた。すぐに黒猫のツインサが浮いてきた…。「暗いところが好きニャ」
生 / ドラゴンの一撃は、彼女が冒険者でなければ人一人を容易く肉塊にしていただろう。とはいえ守りを捨てた彼女が無事でいられるはずもない。蹄を打ち鳴らし、たたらを踏み、無茶で無謀な戦いを挑んだものだと笑みに歪めた唇の血を拭う。痛みを感じないわけではない。この痛みの上に成長がある。
水 / その首に管を。その身に刃を。人魚の肉を食らえば不老不死になれると誰かが流した噂は、水を操る彼女を標的にした。噂は噂であり彼女は人間である。端から信じていなかったが、自らの血を操りせめて出血だけは抑えようと水の青を赤く染める光景はあなたの目に酷く美しく映った。 ――ウォーターブルー『熾乃ちとせ』
キーワード / 振り仰ぐ蒼穹と逆光で見えない表情。喉元に当てられた白刃の煌きに我を取り戻す。負けたにも拘らず清々しい気分だった。男はロイターに目もくれずに剣を納めその場を去ろうとする。「貴様、名は?」「ヴェセル」自他の境を初めから定めているようにただ問いへの答えを返した。
かたる / 忘却の塔に足を踏み入れた途端、あなたのペットの虚空を這いずる者は、エリシェ、と誰かの名前を呟いた。記憶が遡られたのだろう。「ここは……あなたは?」あなたに怪訝な視線を送る。それでも状況を知る者として頼るしかなく、あなたは、エリシェという者はとうの昔に死んだことを伝えるべきか――。
色 / 目を閉ざすことと視力を奪われることは全く違う。ロイターは真っ暗な視界の中、自分の鼓動と乱れた呼吸の合間を縫う何かが這う音に振り返り、見えないものを見ようとした。
触 / 「知っていますよ。神の下僕が神に勝てるわけがない」だから冒険はマニに任せろと言う彼の理屈は最もだ。あなたは防衛者を叩いた。防衛者が防衛者である為に誰を守るのか、神でも救えない命を誰が救うのか?それを問い詰めながら彼を震える手で何度も何度も。
涙 / 「今の内に。時間は稼いでみせます」治癒の雨か涙なのか、未だ滲んだままの視界の中でその背中だけは鮮明に見えていた。「その後はいつもの場所で、また」あなたは帰還の魔法を詠唱した。ここで一人逃げ帰るなんてことはしたくない。マナの反動で今にも頽れそうな体を奮い立たせた。
はか / ハイさんが重く冷たい父の遺体を穴の中に運び入れる。ハイさんに斬り伏せられた時、父はどんな顔をしていたのだろう。今は安らかな顔をしているが、豹変した父が私に向けた刃とあの表情は今も目に焼き付いて離れない。 ――神の生贄『レイラ』
はか / 飛んできた石に楽器は粉々に破壊され、吟遊詩人自身も深い傷を負った。酒のグラスを傾ける赤髪の将校を睨み付け、美点の欠片もない呪詛混じりの詩を吟う。この挑戦への将校の答えは、新品の墓を吟遊詩人に投げ込む事であった。
キス / 一口だけ飲んだラムネの強すぎる刺激に涙目になり、レイラはハイに残りを手渡した。「間接キスは気にしない方なんですか?」ハイさんが茶化すので、取り返さんと手を伸ばす。「ちゃんと飲まないと体力消耗しますよ」そう言ってラムネを軽く揺らしていた。 ――神の生贄『レイラ』
汚い / 「や、やめてよ。気持ち悪い」癒しの女神は嫌悪感を露にした声音を投げ掛ける。敵の返り血を浴びながらの戦闘を見るのは確かに気持ちのいいものではないだろう。お詫びに祭壇に新鮮な死体を捧げようとしたが――「Gの死体なんていらないわよバカ!」
汚い / 乱暴に転がされたロイターの腹を爪先で突くだけで、身を強張らせて呻いた。浅く息を吐き、腹の中の玩具で声をあげなかっただけ昨日よりは疲労していると見える。乳と媚薬を混ぜて与えると、昨晩の惨事を想像したのかオッドアイに涙を滲ませあなたを睨み付けた。
汚い / 死角へと周り込まれ執拗に眼帯を狙う切っ先を弾き飛ばす。狙われていると分かればヴェセルの出方に応じられた。「何を執着している?貴様の腕なら小細工など必要ないだろう」ヴェセルは埃を払いながら、ロイターの隻眼を見つめた。「…その下を見てみたいと思った」
汚い / 何も知らない最愛の妹は、私の帰りを喜んだ。私の手を取る妹の手は、暖かな食卓の為に熱が奪われていて酷く冷たい。同じ与奪であれ、汚泥を這いずる有象無象を引き摺り落として生きる私の手に彼女が触れることは許されないような気さえした。
熱帯夜 / 地下の湿気はヴェセルの体力を徐々に削っていく。組み敷かれ抵抗も儘ならないまま蹂躙された。額を押し付けた床は温く、触れた肌は熱く。何もかもがヴェセルを犯す。生温い体液を浴びせて満足した男にヴェセルは汗で貼り付いた髪を払い氷のような視線を返した。
茶 / 「わぁ、いい匂い。何を作ってるんですか?」「ハーブティーよ。私はアルローニア。防衛者ちゃんはキュラリアね」「あの藻みたいなものが蓋を押し上げて成長し続けてるポットは?」「失敗作のストマフィリア」 ――紅の月『イズミ』
茶 / 「イズミさんの料理って、凄く雑ですけど凄く美味しいですね」「彩り悪くてごめんねぇ。いかにクオリティを落とさず手を抜くか。食べ盛りが何人もいると料理も面倒になっちゃって」イズミは焚き火にアピの実を放り込んでザッハトルテを焼き上げた。 ――紅の月『イズミ』
背中 / 獣の牙から、魔物の爪から、父の刃から私を守るその背中は頼るに申し分無かった。しかしこの人は何故よりによって私の防衛者なのだろう。私がその背に突き立てる短剣を忍ばせていることを知っていながら、平然と後ろを預けている。 ――神の生贄『レイラ』
環 / 首に掛けた手に力を込めても息苦しそうに眉を寄せるのみ。ヴェセルからは生きようとする意志を感じられなかった。死のうとすることもなく生きているから生き長らえていた。「何故だ、ヴェセル……」答えが返る筈もない。それでもロイターは問わずにはいられなかった。
名残 / 忘れられたのか、捨てられたのか、冒険者の野営跡から瑞々しいリンゴを拾い上げる。腐りもせずにそこにあったリンゴはあなたに触れてようやく時を刻み始めた。「……呪われていますね」「やっぱり?」「だから捨てられていたのでしょう」 ――紅の月『イズミ』
兎の角 / 「有りえないものを例えた言葉らしいけれど……」「角の生えた兎も、獣に変えられた人間も、ここでは有り得るものに分類される。有りえないものは無いと思っていいだろう」「人々が手を取り合うことは兎の角かしら?」「人々が君のような……君より少し落ち着いた者ならな」
いか / 怒ればいいのか、悲しめばいいのか分からなかった。芽吹かないのならいっそこの手で摘み取ってしまおうか。実らないのなら刈り取ってしまおうか。あの頃の面影のない彼女を見続けるのはあまりにも辛いから。僕はエヘカトルにさよならするよ。
まく / 「茶番劇も終幕だ」機械仕掛けの神は古の散弾銃を元素の王へと向けた。時よ止まれ。全てが静止した世界の弾幕が終焉へと向けて動き出す。「巧くやれと、汝に言った筈だが」神の主はそれさえも見越していたかの如く灼熱の炎で蒸発させた。「我も甘く見られたものだ」
世界 / あなたはいつものように箱庭を愛でていた。あるとき、故郷と呼べる世界が再びあなたを呼んでいることに気付いた。「おかえりなさい!…いやただいま…?おっぱい」扉の向こうで創造の猫が神託を記し、それを大いに喜んだ人々による祭は未だに終わる気配はない。
パンツ / 「同じ『食らう』でも、頭がおかしくなるか元からおかしいかの違いね。まるで変態だわギャルのパンティーを食べるなんて」「防衛者の生ものの長棒は?」「食べる。……無駄にエゴを付けないでくれる?烈火だろうと輝いていようと食べるわよ長棒は」 ――紅の月『イズミ』
肉 / 敵の群れを一掃し、こんがりと焼き上がったドラゴンの死体を拾い集める。レッドドラゴンのピリ辛炒め、グリーンドラゴンの大葉焼き。脂肪分の少ない鶏肉の様な物と考えれば不味いものではない。そこに目を付けた健康志向の大富豪によって店は繁盛しているようだ。「高くても売れるわけだよ」
首 / 「どうだ、刃の感触は!何か言ってみろ。それとも、このまま死にたいか?」首筋に添えられた剣がひやりと肌を冷やす。しかしヴェセルはその刃を握り皮膚に食い込ませた。「お前に殺されるのなら悪くない」手から滴り落ちる鮮血に今度はロイターが苦い顔をした。
筋 / 「それ以上近付くなら殺します」「殺せばいいじゃない」彼女は警告を無視し歩を進める。防衛者の向けた刃に喉元を晒し、首をかしげて不適な笑みをたたえた。「私の敵になるつもりなのでしょう?」
調教 / この現実を認められないと放心している防衛者の顔を上げさせ頬を撫でる。触れただけで防衛者は内から湧く快感に身を強ばらせ、羞恥に涙を浮かべた。「あ…!」媚薬の効果で防衛者のポーションにすっかりまみれた防衛者の生ものの長棒を服越しに文字数
スナイパー / 魔法の矢の一点に絞られたマナの奔流がロミアスの腕を貫いた。肌、筋、骨を等しく抉り、ロミアスの腕は弾け飛ぶように千切れ異形の弓と共にPCのそばに転がり落ちる。「冗談だろう……」マナで焼け焦げたような腕の断面からの出血は少ないが、冗談では済まされない腕の痛みに否応なしに覚醒させられた。
かり / 「こんがり肉、オードブル、ピリ辛炒め」身を低くし赤い短剣を握り咆哮に耳を済ます。「コロッケ、ハンバーグ、大葉焼き」言うや否や、イズミはドラゴンの前に飛び出した。「ドラゴンステーキのお出ましね」堅い鱗に阻まれ刃先が逸れたが、ドラゴンは牙を剥き出し荒々しく吼えた。 ――紅の月『イズミ』
プレイ / ロイターがヴェセルの足に舌を這わせると、ヴェセルは平静を装ってはいたが吐息を切なげに震わせていた。絡み付くチョコレートをゆっくりと舐め取り、指先を口に含んだまま、背後の影に問う。「これが貴様の望みなんだろう?」
熱 / 「口で言っても無駄のようですね」レヴラスはレントンの自由を奪うと、魔法の詠唱を始めた。魔力の波が圧力を持ち始め、レントンの肌を刺していく。「この経過を記録しておきましょうか。レクサス!」
泣く / 衝撃と共に弾き飛ばされた愛銃。拾おうとして手を伸ばし、しかしバランスを崩して受身も取れずに縺れ込む。起き上がろうと腕を、…腕?あれは、銃の側で赤い線を引いているあれは、俺の腕じゃないか。意識した瞬間遅れてきた痛みと事実に、丸腰の狙撃手は慟哭を響かせた。 ――終焉の銃『フィデル』
つい / また、また治して貰えばいい。そうだろう?あの時だって治った。また銃を握れた。愛銃と腕を片手に抱きしめて、青の鷹の眼は向かうべき先を見据える。痛みを忘れる程の無様な逃避と譫言の自己暗示を笑う者は居らず、彼の左足に嗜虐的に銃口が向けられている事を伝える者も、また。 ――終焉の銃『フィデル』
閉鎖空間 / 「……ほう。どこを探しても、か」当たり前だ。白き鷹がそう簡単に見付かる筈がない。報告を受けたロイターは、そのまま捜索を続けるよう命じ自室の扉を閉ざした。部屋の奥からは鎖の擦れる音が響き、金髪の男がその短さに踞っている。鎖に繋がれた男――ヴェセルが部屋の主の名を呟いた。
から / 「私のシモベがこれを…?」マニは根本から断たれたルルウィの羽に触れようとした。寄るな、触るな、聞くな、見るな、問うな、喋るな、探るな、見るな。――私を嘲笑いにきたの?マニの向けるもの全てを拒絶しルルウィは罵倒とは呼べない言葉を吐き出した。「ルルウィ」その名を呼ぶな。
重さ / もう傷口を押さえることもせずにヴェセルは横たわったままでいた。ロイターはこのままだと死ぬだろうヴェセルを担ぎ上げる。「……置いていけ」「もう逃がしはしない」だらりと力なく垂れていた腕を上げ、ヴェセルはロイターに触れた。「ならば、お前が私を生かす間は生きてみよう」
祈り / マナの反動が体を蝕んだ。弾け飛びそうな体を押さえ込み、それでも詠唱は止めない。ジュアの癒しが肉体を超回復させ、精神は極限まで磨り減らされる。一頻り悲痛に叫び、とうとう膝ががくんと折れた。それまで側で見守っていた防衛者が天に手を掲げる。「この者にジュアの加護を。レイハンド!」
頬 / ロイターの第一声は自分でも信じられないほどに熱が籠っていた。自分の意思を置き去りにし、ヴェセルの言う事に従っていれば自分自身を守っていられる。そうだな、とヴェセルは思案する。「私を殴ればいい。それで充分だろう」それがロイターに与えられた命令だった。
痛 / みすぼらしい布団に潜り込んで、腕を枕に身を横たえる。何かが駆動しているような音と、金属を打つ誰かの足音。布団を侵食してくるような冷気。目が覚めた時には、身体中が錆びた機械にでもなったようにぎしぎしと痛むことだろう。夜を明かすにはアクリ・テオラの床は硬すぎた。
憂鬱 / 彼女の好物だ。好物のはずだ。だが目の前のザッハトルテに手を付けようとせず、俯き溜め息を吐くお嬢を見やる。いつか紡がれる言葉をただ待った。「…これ、呪われています」喧騒や他愛ない会話などそんなものはもう聞こえない。ここにあるのは黙々と過ぎていく時間だけだった。
リバース / 同僚からの陰湿な嫌がらせにはもう慣れた。醜い嫉妬で支給品の食糧に『何か』を混ぜていることにも。食べないことには体は持たず、食べたとしても運が悪ければ吐き戻すだけだ。「大丈夫かフィデル。飯に中るなんて運が悪いな?」焼けるような喉の痛みで、同僚のにやついた声に返せない。 ――終焉の銃『フィデル』
パン / 「ごほッ、う、…」衝撃に頽れ、深い青の瞳に恐怖の色が映る。しかしそれは嗜虐心に火を付けたに過ぎず、あなたが再度拳を握るだけでその狙撃手は小さく悲鳴を上げて咳き込んだ。「ッ、は…!」上手く息を吸えずに喘ぐ男を見下ろし、がら空きの腹を蹴り飛ばした。 ――終焉の銃『フィデル』
審判 / 刺された腹を押さえたまま蹲る。この手を離せば内臓が溢れ出してしまいそうな予感に襲われる。動けば死ぬ。動かずとも死ぬだろう。本能は警鐘を鳴らしていたが、詠唱もポーションも使えない彼女はただ敵の刃が降り下ろされるのを待つことしかできなかった。 ――神の生贄『レイラ』
相棒 / 腹に突き刺さったままのディアボロスを引き抜くと、時が動き出し傷口から血が溢れ出す。壁に凭れるだけのはずが、足に力が入らずにずるずると座り込んだ。「…ロイター。お前は、これで満足なのか…?」今度は虚空ではなく、赤髪の青年を、かつての友を、ただ見つめていた。
導火線 / 「私には妹がいて」「やめろ」「この戦争が終わったら花屋でも開k」「ヴェセル、それ以上は言うな」「実はプレゼントも買ってk」「やめろおおおお!」「…わかった。私は部屋に戻る」「うわああああああ!行くなああああああ!!」
在りし日 / 「ヴェセル。貴様には、何が見える?」巨大な青い水晶に映るエリシェの姿に、ヴェセルの心臓はトクンと脈打った。「エリシェ……」「だろうな。貴様の家から押収されたものだ」「もう、私には必要のないものだと思っていたが……」「あれが貴様の言っていたエレアの娘か」「エリシェ……」「いつまで過去を眺め感傷に浸るつもりだ。早く終わらせろ」「すぐに終わる」ヴェセルは大きな花束を置いた。「おやすみ、エリシェ」
おかし / 「私が身を差し出せば、主は見逃してくれるんだろうな…?」下卑た視線に晒されながら防衛者は得物を放り捨てハードゲイの群れに歩を進めた。彼らが求めるのはいい男♂であり、主はそれを誘き寄せる餌にすぎなかった。
上/下 / 視線は再び地へ向けられる。それは目の前のロイターを映さぬように逸らしているようでもあった。ロイターが乱暴に胸倉を掴んで顔を上げさせる。「俺を見ろヴェセル! 貴様の命が懸かっているんだぞ!」しかしヴェセルは不敵な笑みを薄く浮かべ「構わない」と囁いた。
ひきがね / 壁に叩きつけられ、衝撃に息が詰まった。閉じかけた傷が開いたような熱さも感じる。「白き鷹を捕――」言い終わる前にイェルス兵が弾け飛ぶ。倒れた兵の背後でロイターが銃を手にしていた。「使ってみれば悪くはないな」細く煙を吐く銃を投げ捨て、ヴェセルの元へ駆け寄った。
なんしょく / 「まだ分からないのか。あの二人の居場所を吐けと言っている!」胸倉を掴んで床に叩き付ける。「がっ!は…!」何度も咳き込み喘いで、ヴェセルはロイターを見上げた。「吐く気になったか?」「…お断りだ。たとえお前の頼みでも」
神様 / 「来たか、私のシモベよ」四肢を切断された死すら許されない、その選択肢さえないマニをあなたは眺めた。「神を囲い、その命を手中にしても、お前はお前以上の何者にもなれない。定命のお前を、神である私はお前が死を受け入れるときまでここで見守ろう」
悪食 / 通常のものより水分が多く含まれ粘土の高いそれが肌に貼り付けられ、フィデルは熱さから逃れようと呻いて体を捩る。喧しい奴だ。好物を食べさせておけば静かになるだろう。つきたての餅を口に詰めてやれば嬉しいのかぼろぼろと涙を流し始めた。 ――終焉の銃『フィデル』
ティアドロップ / 見せしめみたいにサンドバッグに吊るされ、いつもより高い視界に映ったのはマニ様の狂信者。罰当たりとか不届きだとかで物を投げつけられたり死なない程度に殴られたりした。瓶が額で割れて、液体と血が混ざって肌を伝う。痛みだけなら大丈夫。だって俺、それでもマニ様が。――白い奴隷『アデラール』
錠と鍵 / 孕まされた腹部は無理に拡張されているにも関わらず不思議と痛みは感じない。コートを留めることは叶わず、白い肌と青黒い血管の走る丸い腹部が夜の空気に晒されている。中で蠢くエイリアンの幼体を感じようと臨月の腹を慈しむように撫で擦る彼の顔は正しく母親のそれだった。 ――消えた呪い『ツェペシュ』
きせい / 水のように流れ出る血の滴る音の中、成長を遂げたエイリアンが飛び出して彼の足元にぼとりと落ちて力なく鳴いた。エイリアンに引かれ溢れる内臓を気にも留めずに、彼は彼の子供に触れる。『おはよう、僕の――』 ――消えた呪い『ツェペシュ』
それでも / 「勝てる確率は一割にも満たないだろうな」「勝つか負けるかだけ考えれば五割、二分の一だ。今更怖じ気づいたか?」「まさか」「貴様には言っておく」「何だ」「万が一俺が死んでもあの時のようにはなるなよ」「エリシェと一緒にしないで貰いたい。第一お前が死ぬイメージは無い」「貴様が失踪した時はどこかで野垂れ死んでいるかと思ったがな」「言っていろ。私もお前も死なない。生きて帰るぞ」「そうだな」畳む
ロミアスをペットにしてしばらく経った。ロミアスを傷つけ、何度も復活させ、手篭めにしたあなたをロミアスは恨んでいるだろう。しかしペットという制約上、ロミアスはあなたから離れる事はできない。ロミアスはわが家の中では紐を解かれ、自由にする事ができる。あなたはロミアスに今日の夕食を作る事を命じた。
「私はいつでも君を殺すことができるのだが、それでもいいのなら」
相変わらず反抗的である。
ロミアスはノースティリスに来たばかりで右も左もわからないあなたに乞食の死体を食べさせた事がある。今はもう、この世界を生き抜く事ができるあなたに妙なものを食べさせる事はできない。あなたはその料理が何なのか理解できるし、食べない選択もできる。
「私に何をさせたいのか全く理解できない。だが、これが主人となる君の命令だから渋々従ったまでだ」
作ったのは卵料理と、ヨウィンで採れた野菜のシンプルな料理だった。はなから料理の巧拙を期待してなどいない。あなたは上品なテーブルの上に並べられた料理に手を伸ばした。
「――おいおい、冗談だろう?」
些か緊張感を孕んだ、しかし聞き慣れた言葉と共にロミアスはテーブルクロスを思い切り引いた。クロスごと床に流れ落ちて叩きつけられる食器の音が響く。意図が分からず困惑するあなたの目の前の、何も無くなったテーブルの上にロミアスは薄っすらと色の付いた液体が入っている小瓶を置いた。
「毒薬ではいかないが、麻痺のポーションを少量混ぜておいた。あのまま食べていたら軽い痺れくらいは引き起こしていただろう。私は食事に薬を混ぜる考えに至る程度には君が嫌いだが、君は何故私を信じるんだ?」
これから背中を守ってもらうペットだからだと答えると、ロミアスは「君はもう少し人を疑え」とだけ言うと食器の破片を拾い集める。腰を浮かせたあなたを「これは私の仕事だ」とロミアスは留めるが、しかしあなたは席を立ち軽傷治癒のポーションを手渡した。料理の残骸と共に、鮮血が滴り落ちている。
「……ああ」
まるで気が付かなかったとでも言いたげに、ロミアスはポーションを受け取った。ロミアスがポーションを口にする間に、あなたはまだ原形の残っていた卵料理を口に運んだ。
「浅ましいことをせずとも、まだ料理は残っている」
拾い食いくらい、ロミアスと出会ったときに一度経験したのだからこれくらい平気だというのに。ロミアスの手料理は、優しい味がした。畳む