No.119

あなたは《機械のマニ》の狂信者だ #マニ
マニ様を飼いならす話

 あなたはアクリ・テオラへ足を運んだ。

 ヴェルニース南西にある、通称「サイバードーム」……と呼ばれていたこの建物は、半ば廃墟と化している。機械のマニを信じる者たちや、サイバードームの住人たちはあなたによって殺され、今や一人としてここを訪れるものは居ない。ヴェルニースのガードを易々とミンチにしその足でここに訪れる程度には、あなたは罪悪感を感じない。あなたの異名を、そしてカルマの深さを知らない者はいないと言っていいほどあなたは酷い犯罪者として通っている。
 アクリ・テオラの入り口には何度も殺して飼い慣らした『ダンジョンクリーナー』が待機していた。アクリ・テオラの外部から内部までの清掃を任せていた為、住人を肉塊にした残骸は全て綺麗に拭い取られて残滓すら残さない。今はただ息を潜め、あなたからの新たな命令を待っている。
 ダンジョンクリーナーに手を出さぬよう命じていたアクリ・テオラの奥からは、まだ生きている機械の駆動音と、微かな息遣いが聞こえた。
 かつては《機械のマニ》を崇める祭壇があった場所だ。いや、今もその祭壇はここにある。血に塗れた祭壇に凭れた、《機械のマニ》と共に。
「戻ってきたか」
 マニは薄く瞼を上げ、あなたを迎えた。眠っていたわけでは無いらしい。機械の神は眠らないのだろうか。それとも眠れないのだろうか。両腕は頭の後ろ――祭壇の上、そしてその上に電子機械を乗せられ動かせないようになっている。無理な体勢でもあり、いくらもがけども機械の重量に圧迫され動かせない。この両腕を犠牲にできるほど精神の箍が外れているわけでもないようだ。
「短い命でありながら飽きもせずにまた私を殺しに来たか? かつてのシモベ、ダレッカよ」
 一度目はエヘカトルに殺させた。二度目は呪われた酒を浴びせて殺した。三度目からは覚えていない。案外あっさりと殺せた記憶があなたにはあった。殺してもいずれ天上で蘇る。願えばいつだって殺せる。それでは面白くない。あなたは彼から賜った《ウィンチェスター・プレミアム》を構えた。
「ぐっ…あ……」
 その脚を撃ち抜いてやると、ごくごく普通に血を流し、苦痛に悶えた。かつて殺した時確かめた彼の死体は機械ではなかった。何の変哲もない血肉だった。マニがあなたに体を機械化することを勧めてきたように、彼自身も体を機械化していればこの苦痛もいくらか和らいだだろう。機械にできず、生身の体にできること。いつか酒で殺した時のように、あなたはマニに媚薬を投げつけた。
 あなたは今も投擲は下手だった。目の前にいる相手でも、物を当てることを失敗する。瓶が割れて、中身がぶち撒かれる。破片がマニの額を傷つけた。とろりとした媚薬が血と共にマニの服に染み込んでいく。伝うものを拭う手は封じられている為、マニは頭を振った。代わりにあなたが破片を癒しの手で掃えば同時にあたたかな光がマニの傷を癒していく。先ほど撃った脚も同様に。
「……相変わらず、お前のやることは理解できない。一体、何が目的だ」
 神も人間と変わらぬ姿かたちをしている。媚薬の効果にも違いはない。このまま放っておけば乳を流し卵を孕み服の中を汚すのだ。目的があるとするならば――あなたはダンジョンクリーナーに見向きもされない機械の神を一瞥し踵を返す。
 もし勇気ある冒険者がこのアクリ・テオラに足を運び、神への冒涜そのものであるこの光景を目にした時。何を抱くだろうか。何も見なかったことにして立ち去るだろうか。彼の敬虔な信者であれば、神を救う事ができない己の無力さを嘆くだろうか。彼の信者でなければ、あらゆる方法を使って殺そうとしてみるだろうか。慰み者にするだろうか。あなたが作り出したこの光景に戦慄するだろうか。

 あなたはニヤリと笑ってアクリ・テオラを後にした。畳む

二次創作,NPC,掌編