防衛者の『アデルフォード』の話 #deflayh_pc続きを読む もう晩も過ぎたというのに、ノイエルは真昼の明るさを取り戻していた。家々を、人々を炎が舐め、白い雪は赤黒い泥水に変わりゆく。窃盗の証拠を塵一つ残さないようにあの巨人の枷を外したのはあなただ。あなたを罵ったモイアーのような目撃者も、じきにこの世から消えることだろう。 防衛者はその光景を寂しげに眺め、小さく祈りを捧げた。火の手の回っていない無人の家屋で、あなたと防衛者は全てが焼き尽くされるまで待機していた。燃え残った遺品をゆっくりと漁ろうという魂胆だった。「これから、どうするおつもりで?」 防衛者はバックパックに巨大な十字架を詰め直していたあなたに振り返る。解放されたエボンの咆哮が硝子の窓を叩いていた。まだまだ全てが終結するまで時間はあるだろう。あなたは気まぐれに防衛者の唇を奪った。防衛者は主の矛先が自身に向くなど露にも思わず戸惑いを見せる。「主。まさか、ここで、ですか?」 町の者は皆エボンの世話で手一杯だ。こんな状況だからこそ、ジュアの下僕である防衛者と気持ちいいことをする。ジュアの加護を受け祝福された町が崩壊していくその真っ只中で。 あなたは防衛者を簡易ベッドに押し倒し、上着をはだけて固く巻かれた晒しを器用に盗み取った。防衛者にあるはずのない二つの膨らみが露になる。防衛者の腕は晒しに押さえ込まれていた胸を隠そうと反応はしたが、しかしそうしたところで意味がないことを知っていた。「主の望みであれば……」 あなたが気持ちいいことに積極的であることを知らずにいたわけではなかった。いつか我が身にも来ると覚悟はしていたがそれがよもやこんな時だとは想像していなかっただろう。あなたがこのまま止めるはずもないとも理解はしている、望まれれば抗えない形だけの意思表示だった。 防衛者と言えどもこうして衣服を剥いでしまえば中身はただの生真面目な生娘だ。純白の乙女と謳われるジュアの元で気持ちいいことに乱れていたはずもない。あなたの視線を受けて羞恥に顔を逸らす防衛者の胸に視線を下ろすと、彼女の胸の下に走る赤い線が目に止まった。こんな傷を負っていたことは知らなかった。彼女が誰かに治療を任せるはずもなく、一人未熟な魔法で治療したのだろう。完全には消せなかった傷跡がいくつも残っていた。防衛者を見れば困ったような顔で苦笑する。「見苦しいでしょうか。目を瞑ってやってください」 男しかいない防衛者たちの中でどのように生きてきたかはあなたには知る由もない。『小さい方の防衛者』。防衛者の『メイゼン』と比べられ、彼女は皆からそう呼ばれていた。「私はあなたの盾です。傷はあなたの代わりに受……っ」 遮るようにその傷に触れるとびくりと反応した。盾。それはあなたの所有物だ。あなたの支配下にあるペットも同じくあなたの所有物だ。自分の物が傷付くことは避けたいものだが、彼女が防衛者である以上避けられない。性別を偽り、個を捨てた彼女があなたには愚かに映った。 ここが閨であったなら気付けなかっただろう小さな傷跡はいくつも刻まれていた。その一つ一つをなぞっていくと、しなやかな筋肉の乗った体は想像よりも柔らかな弾力で答えた。あなたの指先は男にはない曲線をなぞり防衛者を高ぶらせる。暖炉の薪と外の建物がぱちぱちとはぜる音に混ざり、防衛者が瞼をきつく閉ざし指を噛み喉をひきつらせてなく声が微かに耳に届く。触れた場所にのし掛かる擽ったさを、痺れを、疼きを、あなたにすがりもせずに自傷で堪えようとしている。あなたは防衛者の手を取り歯形の残る指に口付けを落とす。潤んだ瞳が不安げにあなたを見つめ、やがて小さく頷いた。悩ましく、女の姿でしゃくりあげた。 崩壊する教会の鐘が二人を祝福するように鳴り響く。快楽の波間に防衛者がどうにか言葉を紡ごうと、あなたの腕に触れた。息が整うのを待てずに潤んだ瞳に熱を湛えた防衛者は、途切れ途切れの決意を口にした。「ぁ、主、お願いがあります。なまえで、呼んでください」 この時だけは盾でなく個として、人としてあなたを受け止めたいとねだる『小さい方の防衛者』。あなたは嬉しげに彼女の待ち焦がれたその名を耳元で囁くと、防衛者の『アデルフォード』は蕩けた笑顔を見せた。*おわり*畳む 2024.8.28(Wed) 20:08:26 二次創作,冒険者,掌編
もう晩も過ぎたというのに、ノイエルは真昼の明るさを取り戻していた。家々を、人々を炎が舐め、白い雪は赤黒い泥水に変わりゆく。窃盗の証拠を塵一つ残さないようにあの巨人の枷を外したのはあなただ。あなたを罵ったモイアーのような目撃者も、じきにこの世から消えることだろう。
防衛者はその光景を寂しげに眺め、小さく祈りを捧げた。火の手の回っていない無人の家屋で、あなたと防衛者は全てが焼き尽くされるまで待機していた。燃え残った遺品をゆっくりと漁ろうという魂胆だった。
「これから、どうするおつもりで?」
防衛者はバックパックに巨大な十字架を詰め直していたあなたに振り返る。解放されたエボンの咆哮が硝子の窓を叩いていた。まだまだ全てが終結するまで時間はあるだろう。あなたは気まぐれに防衛者の唇を奪った。防衛者は主の矛先が自身に向くなど露にも思わず戸惑いを見せる。
「主。まさか、ここで、ですか?」
町の者は皆エボンの世話で手一杯だ。こんな状況だからこそ、ジュアの下僕である防衛者と気持ちいいことをする。ジュアの加護を受け祝福された町が崩壊していくその真っ只中で。
あなたは防衛者を簡易ベッドに押し倒し、上着をはだけて固く巻かれた晒しを器用に盗み取った。防衛者にあるはずのない二つの膨らみが露になる。防衛者の腕は晒しに押さえ込まれていた胸を隠そうと反応はしたが、しかしそうしたところで意味がないことを知っていた。
「主の望みであれば……」
あなたが気持ちいいことに積極的であることを知らずにいたわけではなかった。いつか我が身にも来ると覚悟はしていたがそれがよもやこんな時だとは想像していなかっただろう。あなたがこのまま止めるはずもないとも理解はしている、望まれれば抗えない形だけの意思表示だった。
防衛者と言えどもこうして衣服を剥いでしまえば中身はただの生真面目な生娘だ。純白の乙女と謳われるジュアの元で気持ちいいことに乱れていたはずもない。あなたの視線を受けて羞恥に顔を逸らす防衛者の胸に視線を下ろすと、彼女の胸の下に走る赤い線が目に止まった。こんな傷を負っていたことは知らなかった。彼女が誰かに治療を任せるはずもなく、一人未熟な魔法で治療したのだろう。完全には消せなかった傷跡がいくつも残っていた。防衛者を見れば困ったような顔で苦笑する。
「見苦しいでしょうか。目を瞑ってやってください」
男しかいない防衛者たちの中でどのように生きてきたかはあなたには知る由もない。『小さい方の防衛者』。防衛者の『メイゼン』と比べられ、彼女は皆からそう呼ばれていた。
「私はあなたの盾です。傷はあなたの代わりに受……っ」
遮るようにその傷に触れるとびくりと反応した。盾。それはあなたの所有物だ。あなたの支配下にあるペットも同じくあなたの所有物だ。自分の物が傷付くことは避けたいものだが、彼女が防衛者である以上避けられない。性別を偽り、個を捨てた彼女があなたには愚かに映った。
ここが閨であったなら気付けなかっただろう小さな傷跡はいくつも刻まれていた。その一つ一つをなぞっていくと、しなやかな筋肉の乗った体は想像よりも柔らかな弾力で答えた。あなたの指先は男にはない曲線をなぞり防衛者を高ぶらせる。暖炉の薪と外の建物がぱちぱちとはぜる音に混ざり、防衛者が瞼をきつく閉ざし指を噛み喉をひきつらせてなく声が微かに耳に届く。触れた場所にのし掛かる擽ったさを、痺れを、疼きを、あなたにすがりもせずに自傷で堪えようとしている。あなたは防衛者の手を取り歯形の残る指に口付けを落とす。潤んだ瞳が不安げにあなたを見つめ、やがて小さく頷いた。悩ましく、女の姿でしゃくりあげた。
崩壊する教会の鐘が二人を祝福するように鳴り響く。快楽の波間に防衛者がどうにか言葉を紡ごうと、あなたの腕に触れた。息が整うのを待てずに潤んだ瞳に熱を湛えた防衛者は、途切れ途切れの決意を口にした。
「ぁ、主、お願いがあります。なまえで、呼んでください」
この時だけは盾でなく個として、人としてあなたを受け止めたいとねだる『小さい方の防衛者』。あなたは嬉しげに彼女の待ち焦がれたその名を耳元で囁くと、防衛者の『アデルフォード』は蕩けた笑顔を見せた。
*おわり*畳む