No.122

ロミアスに撃たれる話 #ロミアス

 ネフィアのボス、『ミノタウロス』が壁を破壊する音は徐々に近付いていた。しかしそれがぱったりと止んで、嫌な静寂が辺りを包み込む。悪い予感はよく当たるもので、突然あなたの側の壁が大きく弾け飛んだ。
 あなたの眼前で斧が振り上げられる。唸る得物の主はミノタウロス。
 張り詰めた声で名前を叫ばれた。声の元は矢を番えるロミアス。
 その瞬間、地面を蹴ってその場を離れろと思考は命じたが、足は竦んで動こうとしなかった。軽い混乱に陥ったあなたの思考に第二の命令が下される。防御せよ。上からの強力な一撃を受け止めれば盾ごと粉砕されるかもしれないが、しかし他に手はない。このまま頭を割られるのを黙って受け入れるわけもない。動かない足の代わりに腕を操った。
 ミノタウロスの斧が振り下ろされた瞬間、予想していた衝撃は盾にではなく、盾を構えた左腕に走った。それも鋭く、一点を突くような。守りが崩されそのまま足元が覚束なく感じられるような浮遊感を覚えた。ある種の絶望にあなたは瞼を閉じる。――ロミアスは上手く逃げてくれれば良いのだが。
 終わりの時は来なかった。斧の両断も、地面との衝突も無かった。目を開けたあなたはミノタウロスが斧で地面を深々と抉っているのを離れた場所から見ていた。何が起きたか理解できないまま、不安定だった体は倒れる前に何かに支えられている。
「まだ危機は脱していないというのに、何を呆けている?」
 背中からかかる声と痛みに意識が引き戻された。自分の足で立ち、ロミアスを睨み付ける。二の腕に突き立っていたものを引き抜かれたのだとロミアスの手に握られた矢が語っていた。鏃の返しが肉を裂いて生温かな血が流れたのを淡々と頑丈なロープで止血を始めているのを、あなたは客観的な妙な心地で見ていた。
「もしこの矢が外れていたら、君はあの斧で死を遂げていたか、ミノタウロスが私の元に飛んできていたことだろう。どちらにしろ私の死は避けられなかっただろうな」
 あなたの血が付着した鏃の調子を確かめ指で乱雑に拭い矢筒に放る。血の巡りの停滞か、感覚が麻痺しているのか、異形の森の弓からの毒が広がっているのか、然程痛みの酷くはない左腕は鉛のように重く感じた。
「死ぬよりはいいだろう? 利き腕ではないにせよ、その腕でまだ奴と戦いたいと言うのなら止めはしない。その場合私は手を出さずに隠れているとするが。ここで財宝を諦めるのなら、私は君が次元の扉を開くまでの時間稼ぎをする。それくらいの援護はしよう。運よく生きて帰れるかは運命の神次第というわけだ」
 あなたはバックパックから脱出の巻物を取り出し頷く。ロミアスはそれを認めて魔法の詠唱を始める。周囲の大気がざわめきだした。あなたとロミアスに気付いたミノタウロスの咆哮を鈍足の魔法がかき消す。激昂する敵をロミアスはニヤリと笑い――あなたは次元の扉を開けた。畳む

二次創作,NPC,掌編